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『デュエル』ジャック・リヴェットによる俳優主義

© 1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

『デュエル』ジャック・リヴェットによる俳優主義

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俳優主義



 「人の演技を見るということは、自分もその演技を心の中で真似るということである」「俳優を追うカメラの動きから、俳優を映し出す装飾に至るまで、すべてが俳優に到達するための方法でなければならない」(ジャック・リヴェット「The Act and Actor」)*1


 二十二歳のリヴェットがルーズリーフに書いたとされる「The Act and Actor」という未発表の文章がある。この文章自体が、たとえばレオス・カラックスの『アネット』(21)への最も美しい批評としても機能するような、映画俳優に関する先見性に溢れた文章であることに驚かされる。そして若き日に記されたこの刺激的な文章の実践を、生涯に渡って追求していくリヴェットの野心は空恐ろしい。これだけでもリヴェットが破格の映画作家であることの証左になっている。



『デュエル』© 1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.


 全ての映画の装置は俳優の身振りに到達する。共演者が別のシーンでどんなことをしているか知らされず、全編に渡ってほぼ即興で撮られたという『アウト・ワン』と違い、『デュエル』の俳優の演技には脚本がある(撮影前にメモのようなものを渡されたという)。また、俳優の個人的な素材を盛り込み、俳優による創作の自由が与えられた『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(74)までの流れとは異なり、本作では即興で演奏される音楽と俳優の身振りとの関係性がもたらす作用に神経が注がれたという。さながらサイレント映画の演奏付き上映会を想起させるが、ここでは俳優もまた演奏家なのである。俳優がピアノの音に驚き、演奏者の方を振り向くことさえある。その意味で、五線譜(または舞踏譜?)のようなものが描かれた壁の出現は興味深い。演奏を伴うアクション/リアクションのライブ実演。空間を広く捉え、弧を描くかのように動き続けるウィリアム・リュプチャンスキーの素晴らしいフレーミング。本作では連続性のある身体の動きをバラバラにしてしまうようなクローズアップは極力避けられている。この実験は、次作『ノロワ』で破格にして高度な洗練を迎えることとなる。


 本作のピエロを演じるバビレの身体演技に顕著だが、ここでは指先の動きまでもが意識される。「メタモルフォーゼから筋肉へという逆方向の衝動の出現」*1。ヴィヴァがピエロと争うモノクロ画面に転換するシーンで、彼女の行く手を阻むピエロの指先の筋肉。腕に力を入れる際の、身体の振動まで伝わってきそうな動き方。黒手袋をしたレニが紙幣を渡す際の華麗な手首の動き。ヴィヴァによる魔法のステッキの手さばき。全ての女性たちの優雅な歩き方。水族館の水槽や、大きな鏡、壁や柱に背中を合わせるように動く所作。




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