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果てなき模索の物語『ラブレス』が現代に投げかける問いとは

©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS

果てなき模索の物語『ラブレス』が現代に投げかける問いとは

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未解決の謎が醸し出す神話性



 現代のアッパーミドルに属する家族の実相をリアルなタッチで描く『ラブレス』だが、ストーリーテリングの常道から逸脱するショットもいくつかある。


 たとえば、ジェーニャが恋人とディナーをとるレストランのシークエンス。カメラは正体の明かされない男の一人称視点となり、男の声は店内を歩く美女に電話番号を尋ねる。にこやかに答えた彼女が別の男性客の向かいに座ると、視線はさらに前を歩くウエイターに移るが、そのウエイターがジェーニャたちにサーブするショットに切り替わると、ウエイターの後ろにそれらしき人物はいない。あの一人称視点の男は、客なのか、それとも別のウエイターだろうか?


 あるいは、ボランティア団体の隊長が学校の教室でアレクセイの親友に聞き取りを行うシークエンス。聞き取りを終えた後、映像はいったん廊下に切り替わって隊長と少年の父親とのやり取りをとらえるが、再び教室の中に戻り、立ち会っていた女性教頭が板書を消す作業を延々と写し続ける。物語の本筋ではないこの人物の所作をとらえたショットの意図は何だろう。アレクセイの失踪に関する秘密を知っているのだろうか?


 さらには、ジェーニャとボランティアが車道沿いの電柱にアレクセイの写真が写ったチラシを貼るシーンの後。フレームインした勤め帰り風の男性の後ろ姿が、暗い夜道に進んで闇に溶け込むように消えるまでを、凝視するかのごとくカメラは追い続ける。この男は一体誰なのか。失踪に関わっているとでもいうのだろうか?



『ラブレス』©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS


 これらの謎めいたショットは、しかし、映画の中で解き明かされることはない。伏線の気配を濃密に漂わせながら、回収されることを期待する観客など意に介さぬかのように、それらのショットはどこにもたどり着かない。だが、ストーリーラインに奉仕しない要素が存在するからこそ、描かれる世界が複雑さと豊かさを増し、ひいては人智を超えた神話のような趣さえ醸し出す。



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