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『白いドレスの女』自立してスマート、それまでの流れを変えた80年代悪女映画

(c)Photofest / Getty Images

『白いドレスの女』自立してスマート、それまでの流れを変えた80年代悪女映画

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映画界に登場したキャスリーン・ターナー



 なんといっても、大きな存在感を発揮しているのが、ヒロインのマティを演じるキャスリーン・ターナーだ。舞台経験がありテレビドラマにも出ていたが、これまで特に目立った映画はなかった。そんな彼女が初めて大役を演じることで、新鮮なインパクトを残している。


 この映画が日本で公開された82年2月に彼女は来日も果たしている。記者会見ではどこかお嬢さんっぽい品の良さを漂わせつつ頭も切れる人で、映画の中の官能的な雰囲気は素顔の彼女にはなかった。「訪問した国では、マティと違うねと言われるわ」と笑っていた。個人的にインタビューする機会もあった。その音源が残っていたので聞き直してみると、彼女の個性でもあるハスキーな声ではきはきと答えを返している。


 「この映画の脚本が気に入ってぜひ出たいと思ったわ。監督と話した後、スクリーンテストをしたいからまた戻ってきてほしいと言われて、ウィリアム・ハートと一緒にスクリーンテストをしたのよ」


 そして、マティ役に内定した後に映画会社の重役たちに会いに行ったが、ものすごく緊張していたらしく、「そこにあった灰皿がひっくり返ってしまい、すべて白で統一された部屋がグレーになってしまった。あんなに恥ずかしかったこともなかったわ」と失敗談を笑いながら語る。とてもおおらかな印象だ。



 『白いドレスの女』(c)Photofest / Getty Images


 「これまでのジェームズ・ケイン原作の悪女映画と違って、すごく現代的なキャラクターですね」と質問すると、こんな答えが返ってきた。「これまでの悪女映画の女性像はどこか男性を頼っている部分があったけれど、マティはもっと自立している。マティも、ハート演じるネッドも、今の状況から抜け出したいと考えていて、彼女としては、彼のそんな状況をうまく利用したと思うわ。ただし、ふたりの結末は違うものになってしまうわね」


 また、ハート演じる弁護士に関しては、こんな見方もしていた。「彼はこれまで自分に敷かれたレールの上を歩いてきたと思う。弁護士になり、事務所も手にいれ、女性ともうまくやってきた。でもマティと出会った時、生まれて初めて自分の本当の意志で決断して、それまで敷かれたレールからはずれようとしたのだと思う」


 ターナーの父親は国務省の職員で、家族で世界中を転々とする生活を送ってきたが、14歳の時にロンドンで演劇に出会って俳優をめざすようになったそうだ。演技の道を目指した人間は家族にはいなかったそうだが、「ネッドと違って、私自身は既成のルールを歩くことがいやだったのよ」と笑っていた。


 今後はコメディに出演したいと語っていたが、その後、ロバート・ゼメキス監督の『ロマンシング・ストーン』シリーズ(84~85)では名コメディエンヌぶりを見せ、『ペギー・スーの結婚』(86)では、高校生だった過去に戻ってしまう主婦役をユーモラスに演じてオスカー候補となっている。素顔の彼女も茶目っ気を持っていたので、コメディへの出演は自然な流れに思える。


 また、ルールにはまらない映画という点では、ケン・ラッセル監督のカルト作品『クライム・オブ・パッション』(84)で有能なデザイナーと娼婦のふたつの顔を持つ複雑な役を、ジョン・ウォーターズ監督の『シリアルママ』(94)ではモラルに反した人に罰を下す過激なママ役を怪演。普通のハリウッド女優なら、尻込みするようなリスキーな役にも挑んでみせた。


 新人時代のインタビューを聞き直すと、枠にはまるのではなく、自分らしさを大切にしていたことがよく分かる。そのせいか、「『白いドレスの女』の役作りのために過去の悪女映画をいろいろ見直そうとは思わなかった」とも言っていた。この映画で1番むずかしかったのは、ネッドと最後の会話。お互いの心のかけひきが緊張感を伴って描かれる場面で、嘘に嘘を重ねるような会話の見せ方がむずかしかった」と語っていた。


 大胆なベッドシーンに関しては、「とても少人数の撮影で、すべての場面がすでに振り付けられていた。共演者や監督にリスペクトや信頼関係があったから、それほど大変でもなかった」とコメントしていた。“ボディヒート”という原題を反映して、人物たちはいつも汗をかくが、実際のロケは寒いシーズンに行われ、汗はスプレーだったという。


 ターナーの趣味は読書で、週に数冊本を読んでいると語っていて、こちらが取材用に持参したアメリカの新聞の記事を読んで、「とてもいい内容ね」と目を輝かせていた。彼女自身が持っている知的な要素もマティ役に盛り込むことで、過去の悪女とはひと味違うスマートなキャラクターになっている。





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