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『マイ・ボディガード』主人公の壮絶な生き様、名匠の多彩な演出を通じてラブストーリーと復讐劇を両立させた傑作

(c)Photofest / Getty Images

『マイ・ボディガード』主人公の壮絶な生き様、名匠の多彩な演出を通じてラブストーリーと復讐劇を両立させた傑作

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デンゼル・ワシントンと渡り合ったダコタ・ファニングのすごさ



 もともとの原作はイタリアが舞台だった。当時はイタリアでの誘拐事件が多発しており、これが80年代の映画であれば何の違和感もなかったはず。しかし2000年代となると時代はすっかり変わり、イタリアでの身代金目当ての組織的な誘拐事件は現実的とは言えなくなっていた。


 そこでスコットは、置き換え可能な舞台として”中南米”に注目。独自のリサーチやロケハンを進めることで、この映画独特の生々しくギラギラと太陽が照りつける手触りを獲得していくわけだが、その過程では、彼のお気に入り作品『シティ・オブ・ゴッド』(02)もインスピレーションを与えてくれる一つの源泉となったという。


 そしてトニー・スコットの熟練の腕は、二人の主演俳優への演出の面でも見事な冴えを見せた。何か具体的な指示を出すというよりは、二人が演じやすいように采配し、彼らのための空気を醸成していったというべきだろうか。



 『マイ・ボディガード』(c)Photofest / Getty Images


 そんな中で一つ面白いエピソードがある。スコットの目から見てデンゼル・ワシントンは常に「そのキャラクターになりきる」タイプの俳優で、ひとたびトレーラーから出ると、カメラが回っていなくてもその役のまま、寡黙に緊張感を漂わせ続けていたという。もちろん、撮影現場でダコタ・ファニングと言葉を交わすこともなく、監督の目から見るととても冷たい印象すら感じられたのだとか。


 そこでスコットはファニングを思いやって「大丈夫だよ」とフォローの言葉をかけたものの、そこでの返しが凄い。この小さな巨人ともいうべき少女は「ええ、分かってる。過去にショーンと共演してるから、私は大丈夫」と答えたそうだ。


 ショーンとは『アイ・アム・サム』(01)のショーン・ペンのこと。彼もなりきり型の俳優として有名だ。なるほど、さすが天才子役と呼ばれるだけにキャリアが違う。彼女はただチヤホヤされてきたわけではなく、特別な経験を一回りも二回りも重ね、あらゆるものを吸収した上で、今この地にたどり着いているのだ。


 そんなプロフェッショナリズムをいち早く察知するのもデンゼル・ワシントンの名優たるゆえん。映画の撮影が進むにつれ、ワシントンとファニングの関係性は、物語と同様に少しずつ和らぎ、いつしかカメラの前でアドリブの掛け合いを行うまでになった。言うなれば、トニー・スコット作品史上、最も年齢差のある相棒の誕生である。果てにはワシントンはファニングのことを「あれほどの観察眼を持った俳優と出会うのは、ジーン・ハックマン以来だ」と手放しで称賛したそうだ。





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