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『マイ・ボディガード』主人公の壮絶な生き様、名匠の多彩な演出を通じてラブストーリーと復讐劇を両立させた傑作

(c)Photofest / Getty Images

『マイ・ボディガード』主人公の壮絶な生き様、名匠の多彩な演出を通じてラブストーリーと復讐劇を両立させた傑作

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プールの風景から発案された驚きの撮影法



 さらに本作で際立つのは、トニー・スコット特有の多彩な映像だろう。特に研ぎ澄まされた”字幕・テロップ演出”は重要だ。これらを効果的に用いて現地の言語でしか表現しようのない生々しさを出したり、セリフの中でふと飛び出たキーワードを文字としてあえて表示することで、観客の脳裏に的確に情報を刻んだり、さらには後半になるとタイムリミットを表示して緊迫感を爆発的に高める場面もある。このフォントといい、タイミングといい、サイズといい、ある意味、発明ともいえる手法だと思う。


 そしてもう一つ注目したいのは、後半のデンゼル・ワシントンが数々の銃弾によって傷を負い、次々と突きつけられる衝撃的な真実に面くらいながらも、必死に意識を保ち続けようとする心理描写だ。


 当時、この壮絶な主人公の内面を表現するにあたって「何かが足りない」と感じていたスコットは、たまたま滞在先のホテルの窓から中庭のプールを見下ろした。そこには、ゴムボートに乗って浮かんだ子供をぐるぐると水中で旋回させる父親らしき人の姿。この光景をヒントに彼は「なるほど!」と閃いたのだとか。


 監督が「足りない」と感じたのは、主人公とその背景が一体化したままだったから。もしもこれを切り離して主人公がその背景から振り落とされそうな映像が作れたなら、これ以上の心理描写は他にないと思いついたのである。



 『マイ・ボディガード』(c)Photofest / Getty Images


 そこで彼はメリーゴーランドのようにグルグル旋回する装置を作って、カメラでワシントンの姿を真正面から撮りながら、背景だけはそれに併せてぐらりと揺らぐという映像を手にすることになった。


 私が本編で確認したところ、特に後半、スラム街の一画にある家の屋上に立つ場面で、その手法は顕著に駆使されていたように思う。


 いずれにしても、どの描写にどのアイディアがふさわしいかを”画家”的とも言える直感力で掴み取っていく、トニー・スコットならではの発想力と機動力の賜物である。


 いや、何も『マイ・ボディガード』に限った話ではない。監督作の一本一本があまりに豊かな名作であるがゆえに、我々は一度や二度ならず、人生の折々、衝動に駆られるように彼の作品へと再び惹きつけられ、そのたびにまた新たな発見があり、感動の泉が今なお一向に尽きないことに気づかされる。


 絵の具や筆先のように俳優の存在やカメラワークを駆使し、火薬や武器、テクノロジーすら盛り込みながら、感情を揺さぶる壮大な絵をダイナミックに描きこんでいく彼。トニー・スコットの遺したものはあまりに大きい。彼のような芸術家は、後にも先にも、もう二度とこの世に現れることがないだろう。


参考資料:『マイ・ボディーガード』DVD音声解説



1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 





(c)Photofest / Getty Images

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