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『犬王』湯浅政明の抑制と計算が行き届いた、新時代のミュージカル・アニメーション

©2021 “INU-OH” Film Partners

『犬王』湯浅政明の抑制と計算が行き届いた、新時代のミュージカル・アニメーション

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湯浅作品におけるダンス&ミュージック表現



 原作は、古川日出男が2017年に発表した「平家物語 犬王の巻」。異形の能楽師・犬王と、盲目の琵琶法師・友魚(ともな)が室町期の京の都で運命的な出会いを果たし、やがて時代の寵児としてポップスターの階段を駆け上っていく、鮮烈な青春絵巻だ。それでいて、『ボヘミアン・ラプソディ』(18)や、デヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』(20)とタイマンを張るような音楽絵巻にもなっているのだから、タマらない。彼らを室町期のポップスターに見立て、歌いまくり&踊りまくりのミュージカル・アニメーションに仕立てている。


 『夜は短し歩けよ乙女』の奇っ怪な詭弁踊り、『夜明け告げるルーのうた』の砂浜でのダンス・シーンを挙げるまでもなく、これまでの湯浅政明作品でもダンス&ミュージックは重要なファクターだった。本人も「基本的に音に合わせて身体を動かすのが好き」と公言しているほど(実際には踊れないようだが)。



『犬王』©2021 “INU-OH” Film Partners


 その萌芽は、『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(92)で彼が演出・作画を担当した「買い物ブギー」(by 笠置シヅ子)歌唱シーンに見て取れる。林立するビル群が180度グルグル回りだしたかと思えば、アース・ウィンド・アンド・ファイアーのPVのようなネオン管キラキラ系のサイケデリック演出もインサートされるという、アヴァンギャルドすぎる表現にファンが衝撃を受けたのだ。湯浅政明は、現実と空想の間(はざま)をいとも簡単に往還する。


 だが今回の『犬王』が過去作と異なるのは、どの演目であってもアニメーション演出ではなく、舞台演出としてライヴ・パフォーマンスを設計していることだろう。それこそが、前述した「ライヴ演出として抑制すべき部分は抑制する、理知的な計算」である。




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