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『犬王』湯浅政明の抑制と計算が行き届いた、新時代のミュージカル・アニメーション

©2021 “INU-OH” Film Partners

『犬王』湯浅政明の抑制と計算が行き届いた、新時代のミュージカル・アニメーション

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舞台演出としてのライヴ・パフォーマンス設計



 例えば最初の「腕塚」のライヴでは、ワイヤーを引き上げると藁で作った平家の腕が飛び出す演出を行なっているし、クイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のようなリズムで聴衆を熱狂させる「鯨」では、幻灯機で鯨を幕に投影する仕掛けが登場する。


 もちろん湯浅監督なら、平家の怨念が本当に腕に乗り移ったり、巨大な鯨が京の都の上空を泳ぎ回るという演出も可能だっただろう。しかし、溢れるイマジネーションを舞台装置の開発に傾けることによって、犬王のパフォーマーとしての魅力を引き出すことに専念している。「時代考証的に、このような表現はなかったハズ」という固定観念を打ち破っているのだ。湯浅政明自身、こんなコメントを残している。


「腕塚」本編映像


 「歴史ものを扱う際のイメージとして、“昔なのだから現代に匹敵する技術はないはずだ”と考えて表現の幅を狭めるのはおかしいと思っているんです。たまたま資料に残っていないだけで、現代を生きる我々が考えつくアイディアは当時の人々もきっと抱いただろうと」※


 筆者が最も感嘆したのは、友魚率いるスリー・ピース・バンドが橋の上で決行するストリート・ライヴだ。琵琶をエレクトリック・ギターに見立て、ジミ・ヘンドリックスよろしく後ろ向きで掻き鳴らしたり、イギー・ポップのごとく上半身裸になったり、オーディエンスとコール&レスポンスしたり、ポップスターの王道を突っ走る。


 余計なギミックは一切登場しない。カメラ・ポジションやアングルを変えながら、愚直なまでに彼らの演奏を捉え続ける。似たようなカットが何度もインサートされているから、ひょっとしたら観客に「退屈」とも思われかねない。リスクを承知したうえで湯浅監督はあえてマジカルなアニメーション演出を封印し、友魚のパフォーマンスのみに一点集中させた。彼らが紡ぐ“物語”が世界に伝播し、オーディエンスを興奮させるに至る“熱量”を重視したのだ。物語をどう伝えるかという、見事な計算である。



『犬王』©2021 “INU-OH” Film Partners


 自らの手でオリジナル・ストーリーを創り上げる宮崎駿、細田守、新海誠らと異なり、湯浅政明は原作から想像力の翼を広げるアダプテーションの人。その姿勢が、「何を伝えるか=What」ではなく「どう伝えるか=How」に特化させたのかもしれない。


 彼は、いつも世界をちょっと違った角度から見つめている。生まれながらの異形によって、瓢箪越しに世界を眺める犬王のように、あるいは平家の呪いによって、薄ぼんやりとした世界に佇む友魚のように。


※ユリイカ「湯浅政明特集



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。




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『犬王』

5月28日(土) 全国ロードショー

©2021 “INU-OH” Film Partners

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