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『WANDA/ワンダ』結末を拒否するヒロイン、終わりのない彼女の物語

(C)1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS

『WANDA/ワンダ』結末を拒否するヒロイン、終わりのない彼女の物語

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結末を拒否する映画/ヒロイン



 バーバラ・ローデンの映画に影響を受けたケリー・ライカートは、長編デビュー作『リバー・オブ・グラス』(94)について「道のないロードムービー」と呼んでいる。バーバラ・ローデンが『俺たちに明日はない』(67)における美化されたアウトローのイメージに疑問を感じ、物語を換骨奪胎することで『WANDA/ワンダ』を制作したように、ケリー・ライカートもロードムービーというジャンルを換骨奪胎することで、主人公を美化させない映画を制作した。『WANDA/ワンダ』はヒロインを美化することなく、結末を拒否する映画でもある。ヒロインが進んでいくであろう「道」は用意されていない。


 映画館に立ち寄ったワンダは眠りに落ちてしまう。ワンダを認識することすら危ういほど真っ暗に撮られた映画館の客席。寝ている間に彼女は財布の中身をすられてしまう。スクリーンの前で一文無しになるというエピソードは、他人によって作られたイメージを追いかけることで自分を失っていった、バーバラ・ローデン自身への言及なのかもしれない。このエピソードの直後にデニスに出会うことも含め、彼女の人生の再スタートはゼロから始まったのだろう。


 デニスが知り合いの男性に逃亡の共助をお願いしに行くシーンがある。デニスと男性が対面する間、ワンダは画面の中央で胎児のように丸まって二人の話を聞いている。デニスは一時的にワンダの保護者のような役割を果たしており、彼女の人生の自立を考えている。彼女に何かを成し遂げてほしい。それが銀行強盗だ。


『WANDA/ワンダ』(C)1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS


 二人が段々と、何十年も連れ添った腐れ縁の夫婦のように見えてくる。クッションをお腹に入れ妊婦のような格好をするワンダの遠く向こう側に、ゴダールの『女は女である』(61)のアンナ・カリーナのイメージが滲んでいる。デニスは銀行強盗の手順をワンダに説明する。それは振付けや演出の段取りのようでもある。強盗の本番=ステージに向けて罪悪感と緊張が入り混じったワンダはトイレで何度も吐いてしまう。


 『WANDA/ワンダ』は敗北の映画でもある。「生きる理由はないけれど、私は生きていたかった」と裁判官に訴えたアルマ・マローンの言葉に激しく心を掻き乱され、まるで生き別れの姉妹のように感じていたであろうバーバラ・ローデンの肖像が、ここには刻まれている。ワンダは自分の意志で何かを変えることができないままだ。どこかの共同体に属することもできない。置き去りにされたまま何処にも行くことのできないワンダのラストショットは、この言葉と永遠の共鳴を奏で続けている。ワンダの疲れ切った表情には痛々しくも孤独であり続けた生の美しさがある。ワンダは結末を拒否する。彼女の物語に終わりはない。



*1 The New York Times [Barbara Loden Speaks Of the World of ‘Wanda’]

*2 Nathalie Léger著「Suite for Barbara Loden」



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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『WANDA/ワンダ』

7月9日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

配給:クレプスキュール フィルム

 (C)1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS

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