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『灼熱の魂』神話のような〈個人史〉ミステリー 若き名匠ドゥニ・ヴィルヌーヴの原点を読む

©2010 Incendies inc.(a micro_scope inc. company)-TS Productions sarl. All rights reserved.

『灼熱の魂』神話のような〈個人史〉ミステリー 若き名匠ドゥニ・ヴィルヌーヴの原点を読む

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『灼熱の魂』あらすじ

初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワンは、ずっと世間に背を向けるようにして生き、実の子である双子の姉弟ジャンヌとシモンにも心を開くことがなかった。そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった……。



 映画監督ドゥニ・ヴィルヌーヴは、現在のハリウッドにおいて、早くも“名匠”と呼ばれておかしくない存在感を示している。1967年にカナダ・ケベックで生まれたヴィルヌーヴは、2022年で55歳。そのキャリアにおける最大のターニングポイントが、2010年製作の『灼熱の魂』だ。ある双子の姉弟と、その母親の人生と運命を描いたサスペンスで、緻密な演出力が細部に行き渡った力作である。


 本作を手がけたのち、『ブレードランナー 2049』(17)や『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)という大作に抜擢されて現在の地位を手にするまでに、ヴィルヌーヴは10年も要さなかった。数々の代表作を持つクリストファー・ノーランやポール・トーマス・アンダーソンが1970年生まれの52歳だから、ヴィルヌーヴの方が歳上という事実に驚く人も多いだろう。


『灼熱の魂』予告


 『DUNE/デューン』第2作の公開を2023年に控える中、このたび日本では『灼熱の魂』デジタル・リマスター版が2022年8月12日に劇場公開された。この映画がヴィルヌーヴの過去と現在にどう繋がっているのか、フィルムメーカーとしての転換点を探ってみたい。


Index


双子と母親、ルーツをたどる旅



 カナダに暮らす双子の姉弟、ジャンヌとシモンの母親であるナワル・マルワンがこの世を去った。ある日、プールサイドで呆然としたまま動かなくなり、病院に運び込まれたのちの出来事だった。もとよりエキセントリックなところがあったらしい母親の死に、ジャンヌとシモンはわずかに安堵の表情を見せる。もっとも問題は、ナワルが残した遺言状だった。



『灼熱の魂』©2010 Incendies inc.(a micro_scope inc. company)-TS Productions sarl. All rights reserved.


 ナワルを長年秘書として雇っていた公証人のルベルは、ナワルによる二通の手紙を見せる。一通はジャンヌとシモンの兄に、もう一通は二人の父親に宛てられたもの。ナワルは姉弟に、行方のわからない兄と父を探し、手紙を渡すことを要求したのだ。けれどもジャンヌとシモンは、自分たちに兄がいることも知らなければ、父親は過去の内戦で死んだと聞かされていた。激しく動揺する二人だったが、ジャンヌは自らの家族に隠された秘密を知るため、母親の過去へ接近していく……。




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