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『プレデター:ザ・プレイ』精緻な考証や現代的テーマが導くSFアクションの新たな可能性

(C)2022 20th Century Studios

『プレデター:ザ・プレイ』精緻な考証や現代的テーマが導くSFアクションの新たな可能性

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コマンチ族の習俗を徹底再現



 ナルは女性であるため、コマンチ族の中では狩人(ハンター)になることはできない。しかし、彼女はプレデターに挑むことで、自らの能力を証明しハンターになろうとする。世界各地で伝承される英雄神話は主人公が通過儀礼として怪物を倒すことで、英雄、時には王として認められるという話型が多いが、まさにその典型に則っている。


 そうした神話的な物語にさらなる説得力を付与したのが、コマンチ族の習俗を徹底してリアルに再現するアプローチだ。主人公ナルを演じるアンバー・ミッドサンダーは、ニューメキシコ州のナバホ保護区で生まれたネイティブ・アメリカンであり、その他のキャストもネイティブ・アメリカンの俳優たちが演じている。さらにスタッフにも多くのネイティブ・アメリカンに出自を持つ人材が参加しており、プロデューサーのジェーン・マイヤーズもコマンチ族の末裔だという。



『プレデター:ザ・プレイ』(C)2022 20th Century Studios


 このようなキャスティングやスタッフの配置は、近年のポリティカル・コレクトネス重視の風潮に配慮したものに過ぎない。という、うがった見方をする向きもあるかも知れない。しかし、アメリカでサイレント映画時代から歪められてきたネイティブ・アメリカンのイメージを払拭するためには、そのような配慮が必須だという判断があったのではないだろうか。また、コマンチ族と精神的な距離が近いキャストやスタッフたちによって実現したその生活描写は、説得力に満ちている。


 本作のようなSFアクション・スリラーでは省略されがちな、生活の何気ない一コマ。食事の準備や、歯磨きをする姿、これらを含め衣装や、メイクなど徹底的なリサーチに基づいた考証によって、当時のリアルなコマンチ族の姿が再現されているのだ。台詞は英語とフランス語で撮影されたが、コマンチ語のアフレコも行われており、特典映像でコマンチ語バージョンでの鑑賞も可能となっている。


 さらに撮影の素晴らしさにも注目したい。本作で最も印象深かった映像は夜の「闇」の表現だ。映画において夜を真の闇として描写することはあまりない。ことに本作のようなアクション映画では、夜でも全体にうっすらと月明かりを想定した照明があたっている場合が多い。しかし本作のナイトシーンは、松明に仕込んだ照明のみで撮影されており、闇は闇として、つまり真っ黒な不気味な空間として描写される。


対して昼間のシーンでは、夜明け前や日暮れ前のマジックアワーに撮影された映像が多く、全体にフラットな光となり、雄大な自然をこの上なく静謐な映像で表現している。こうしたリアリティを追求した照明や自然の表現、さらにコマンチ族の習俗の再現をつきつめることで、本作は今までのシリーズより、リアリティラインのギアを一段上げることに成功したといえるだろう。




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