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『ファイブ・イージー・ピーセス』若きジャック・ニコルソン自身を投影した虚無感

(c)Photofest / Getty Images

『ファイブ・イージー・ピーセス』若きジャック・ニコルソン自身を投影した虚無感

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『マイ・バック・ページ』にも登場



 『ファイブ・イージー・ピーセス』が日本で公開されたのは71年で、『イージー・ライダー』と同じスバル座で上映された。後者は半年近いロングラン上映となり、この劇場を代表する伝説的な作品となっているが、『ファイブ・イージー・ピーセス』の方はもっと地味な作品ゆえ、同じように大ヒット作とはならなかったようだ。ただ、クオリティは高く評価されている。アメリカではアカデミー賞の作品賞・オリジナル脚本賞、主演男優賞、助演女優賞の候補となっているし、日本の映画誌「キネマ旬報」ではベストテン(外国映画部門7位)に入っている。


 特に当時の観客には忘れがたい印象を残した1本ではないだろうか。撮影監督としてアメリカでも評価され、後に大島渚監督の『御法度』(99)などにも参加した栗田豊通氏にも影響を与えた1本、と聞いたことがあるし、評論家、川本三郎氏の小説の映画化『マイ・バック・ページ』(11)では、主人公の記者(妻夫木聡)がこの映画を見る印象的な場面があった。



『ファイブ・イージー・ピーセス』(c)Photofest / Getty Images


 実は筆者にとっても70年代に見た最も印象的なアメリカ映画の1本だった。特にインパクトがあったのが、ジャック・ニコルソン扮する主人公が、物語の中盤でショパンのプレリュード4番(OP28)をピアノで弾く場面。すごく短い曲(1ページのみの曲)だったが、そこに人物の隠された心情が託され、忘れがたい場面になっていた。映画を見た後はショパンの楽譜を買いに行き、ピアノで弾いてみた。右手の音階はやさしいが、左手は音数が多くて(素人には)コントロールがむずかしい。ただ、当時は無邪気な映画好きの10代だったので、こうして音を通じて映画の世界に入っていけるのがうれしかった。


 主人公は定住することを嫌っているボビー・デュピーである。映画は彼が工事現場で作業をしている場面から始まる。気の合う同僚もいて、気楽な人生を送っているように見えるが、ウエイトレスの恋人レイ(カレン・ブラック)が妊娠したことを知ると心中穏やかではない。ボビーは実は中産階級の音楽一家で育った人物で、姉や兄も音楽家。レイとは実は住む世界が違う人物だ。そんな彼は久しぶりに実家に戻り、姉や兄、病気の父親と再会する。どの部屋にも楽器が置かれ、一家が音楽を生業としていることが分かる。ボビーもかつてはクラシックのピアニストとして才能を期待されていたが、堅苦しい世界に嫌気がさして、家を飛び出した。そして、放浪生活を選んだものの、自分のルーツを完全に捨て去ることもできない。しかし、結局、実家にも居場所がなく、再び旅に出ることになる…。




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