ニコラス・ケイジ流の徹底した(?)役作り
何をやるにしても過剰な味付けが大得意なジェリー・ブラッカイマー作品だが、プロデューサーとしての彼は、アクション映画のイメージの全くない俳優を積極的に起用したり、はたまたタイプの全く異なる俳優どうしを掛け合わせて思わぬ化学変化を巻き起こし、数々の手腕を発揮してきた。
本作主演のニコラス・ケイジといえば、当時『リービング・ラスベガス』(95)でオスカーを受賞したばかり。そんな彼が90年代半ばに『ザ・ロック』(96)『コン・エアー』、それから製作チームは違うが『フェイス/オフ』(97)で急激にアクションへ舵を切ったのは実に意外だった。少なくともキャリア的に一つの黄金期を迎えたのは事実だ。そんなケイジへの出演依頼は、ブラッカイマーが『ザ・ロック』の撮影中に直接行った。彼は手渡された脚本をいたく気に入り、入念な役作りを始めたという。まずはこの時の彼が続けていたトレーニングで強靭な体を維持する。また、主人公にアメリカのロックバンド「レーナード・スキナード」のヴォーカルのロニー・ヴァン・ザントや「オールマン・ブラザーズ・バンド」のグレッグ・オールマンらを脚本家が投影させたらしいことを知ると、ケイジは彼らになりきって、準備期間中にたっぷりの髭を蓄えた。(*3)
『コン・エアー』(c)Photofest / Getty Images
いよいよ撮影となって、鬱蒼としたスタイルで現れたケイジを見てブラッカイマーは驚き、「あの髭を剃らせるんだ!」と要求。トレーラーに戻った彼はそれに従って髭を剃るのだが、しばらくはせっかくの役作りが無駄になったことにショックを隠せない様子だったとか。その後、妥協案として、髭は完全に剃るのではなく無精髭に。それから「長髪にするならポニーテイルに」というブラッカイマーのリクエストを断って、ケイジはあくまでロングヘアをなびかせることを貫き通したという。
そうそう、主人公キャメロン・ポーがどんなことがあっても決して手放すことのない「ウサギのぬいぐるみ」も、実はニコラス・ケイジが発案したものだそう。大の大人たちがこのウサギを巡って大乱闘するところなど、本当にどうかしてるとしか思えないし、何度見ても心躍る最高の場面だ。