カオスの中に本気度が詰まったクライマックス
作品の中盤、砂にまみれた滑走路での戦いは、だだっぴろい砂漠の広がる辺境地帯で撮影された。俳優やスタッフを含めて数百人単位の人がこの何もないエリアでずっと同じ時を過ごしていたわけで、現場では屈強なキャスト同士、すぐに上半身裸になって筋肉自慢が始まったり、一人が腕立て伏せを始めると、他の者も「負けるもんか!」と追随したり、実際の喧嘩や小競り合いも多かったり、異様なテンションに包まれていたという。
そんな状態だから、舞台がいよいよ終盤のラスベガスへと移るや、みんなたかが外れたみたいに解き放たれた。撮影時間になってもキャストがカジノに行ったきり戻らなかったり。「あいつを探せ!」とスタッフが慌てることも多かったとか。そんな問題児を擁しながらも、最終的には各人が自分の印象をしっかりとスクリーンに刻み付けているのが実に頼もしいところ。
もちろん制作スタッフも執念を見せた。特にカタルシスあふれる不時着の場面では、取り壊し直前だったカジノビルのオーナーと交渉して、そこにコン・エアーを滑り込ませて思い切り大破させる実写アクションを撮影。その臨場感たるや凄まじい狂気の限りだ。もしもこういった場面で安易にCGが挟み込まれでもしていたら、それだけで一気に陶酔感が覚めたに違いない。
『コン・エアー』(c)Photofest / Getty Images
どこまでも大袈裟で、ふざけているかに見えて、実はスタッフもキャストもやるときにはやる。彼らの映画づくりは極めてマッチョでありながら、実のところその根底には映画ファンを心から楽しませたいとする、非常に真っ直ぐで純真な思いに満ちたモノだったことが伺える。結果、『コン・エアー』は2時間近い長尺ながら、体感としては90分くらいに思えるほど、いざ鑑賞すると最初から最後まであっという間だ。
これほど何も考えずにスカッとできる映画は数少ない。我々の心は囚人輸送機とともに飛翔し、無数の修羅場をかいくぐり、最後はあらゆる悩み事や鬱屈した気持ちがすべてこっぱみじんに吹き飛ばされていくかのよう。
馬鹿馬鹿しくて結構。荒唐無稽、上等。封切りから25年が経過し、そろそろ我々は『コン・エアー』を不朽の名作と認定してもいい頃ではないだろうか。
参考:
*1: http://www.kidinthefrontrow.com/2010/03/screenwriter-scott-rosenberg-interview.html
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
(c)Photofest / Getty Images