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『ノベンバー』無二の白さが刻む片思いの墓標

(C)Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017

『ノベンバー』無二の白さが刻む片思いの墓標

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片思いの墓標・白の儀式



 リーナの父親と魔女は、かつての恋愛を語る。クラットは主人と魔女が語る恋愛話に入ることができない。クラットが何も言わずに扉を閉めて出ていくこのシーンでは、父親以上にクラット自身の悲哀が浮かび上がっている。クラットは恋をすることができない。


 このシーンでリーナの父親は「色恋ごときで壊れるやつがいるか」と主張する。しかし、色恋で人が壊れてしまうこともあるということをリーナの父親は身をもって知ることになる。誰かが幸せになっていく物語の裏では、覆い隠されてしまったもう一つの物語が生まれる。ほとんどの時間を一人で過ごしているにも関わらず、めまぐるしく移り変わる感情を体験していくリーナの物語のように。捨てられた指輪は魂を宿していく。河の底でひっそりと置き去りにされている指輪の魂は、一人ぼっちのリーナの感情と響き合っている。



『ノベンバー』(C)Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017


 『ノベンバー』のメインビジュアルの一つにもなっている黒いベールを被るヒロインの図は、リーナが覆い隠す白さを際立たせている。本作において白さとは激しさのことだ。その白さは決して見られてはならない。リーナがハンスに恋焦がれているのと同じ熱量で、ハンスも男爵の娘に恋焦がれていることを、心優しきリーナは知っているからだ。リーナが黒いベールを纏ってハンスと対面することは、思いのすべてをここに留めるための喪の儀式であり、二人の間には残酷な壁が生まれる。片思いの墓標。この美しいシーンで、向き合った二人がお互いにどのようなポーズをとっているか、是非見逃さないでほしい。


 『ノベンバー』は氷雪よりも白い冬枯れた風景の中で、映画のフレームにしか生み出すことのできない片思いの墓標を創造する。成就できなかったその思い、その白さこそが、魔法の再発明に他ならない。白の儀式。リーナの無二の白さは、不滅の詩をその墓標に刻んでいる。




文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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作品情報を見る



『ノベンバー』

2022年10月 29 日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

提供:クレプスキュール フィルム、シネマ・サクセション 配給:クレプスキュール フィルム

(C)Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017

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