1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ファイブ・デビルズ
  4. 『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側
『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側

©2021 F Comme Film - Trois Brigands Productions - Le Pacte - Wild Bunch International - Auvergne-Rhône- Alpes Cinéma - Division

『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側

PAGES


『ファイブ・デビルズ』あらすじ

嗅覚に不思議な力をもつ少女はこっそり母の香りを集めている。そんな彼女の前に突然、謎の叔母が現れる。これをきっかけに、彼女のさらなる香りの能力が目覚め、自分が生まれる前の、母と叔母の封じられた記憶にタイムリープしていく。やがてそれは、家族の運命を変える予期せぬ結末へと向かっていく__。


Index


ミー・アンド・ザ・デビル



 レア・ミシウスの『ファイブ・デビルズ』(22)は悲鳴から始まる。黒い画面を切り裂くように響く女性の叫び声。画面が切り替わると、炎の前で立ち尽くす女性たちの背中をカメラは捉えている。茫然とした表情でこちら側に振り向くジョアンヌ(アデル・エグザルコプロス)。空撮で捉えられた山岳地帯の風景に、ソープ&スキンによる「ミー・アンド・ザ・デビル」が鳴り響く。夜の十字路で悪魔に魂を売り渡した”クロスロード伝説”を残すロバート・ジョンソンによるブルースの名曲カヴァー。アルプスの麓にある小さな村の風景とこの曲との組合せにより、画面は魔術的な様相を帯びていく。季節は冬。寒さがこの地域を支配している。ソープ&スキンは歌う。「私は悪魔と並んで歩いた」。


 この小さな村で暮らすジョアンヌと夫のジミー(ムスタファ・ムベング)の結婚生活は、明らかに上手くいっていない。ジョアンヌの心はどこか別のところにあるようだ。アデル・エグザルコプロスは、『アデル、ブルーは熱い色』(13)でも特徴的だった半開きの唇の表情によって、自分の居場所を見つけられない母親役を見事に演じている。排他的な小さな村の風景の中で一生を過ごしてきたようなイメージをジョアンヌは纏っている。本作のアデル・エグザルコプロスは、レア・ミシウスが言うように「プロの俳優ではないような演技」ができる稀有な俳優であることを再び証明している。


『ファイブ・デビルズ』©2021 F Comme Film - Trois Brigands Productions - Le Pacte - Wild Bunch International - Auvergne-Rhône- Alpes Cinéma - Division


 並外れた嗅覚を持つ少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)は、母親ジョアンヌの香りをはじめ、日常の様々な香りを瓶詰めにして集め、調合している。このヴィッキーのコレクション自体が、既にどこか魔術的だ。そしてヴィッキーは、香りの起源を辿ることができる。たとえば森に落ちていた栗の香りを嗅げば、この栗がかつてリスに齧られたことを読み取ることさえできてしまう。


 10年ぶりに村に帰郷したジミーの妹ジュリア(スワラ・エマティ)との共同生活によって、物語は大きく動き始める(ジュリアという名前は、ロバート・ジョンソンの母親の名前と一致している)。ヴィッキーは香りによって、自分の生まれる前の母親の物語を知っていく。香りが導くタイムリープ。物語の展開が明らかになるにつれ、冒頭の悲鳴と炎が「胎児の見る夢」のような様相を帯びていく。ヴィッキーは強い香りによって倒れ込んだままタイムリープする。瓶詰めにされた香りを調合する少女の部屋は、さながら魔女の住む部屋のようになっていく。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ファイブ・デビルズ
  4. 『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側