1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ファイブ・デビルズ
  4. 『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側
『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側

©2021 F Comme Film - Trois Brigands Productions - Le Pacte - Wild Bunch International - Auvergne-Rhône- Alpes Cinéma - Division

『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側

PAGES


恐怖の手触り・秘密の傷跡



 『ファイブ・デビルズ』の冬と山とは対照的に、夏と海が撮られた大胆な前作『アヴァ』(17)で、レア・ミシウスは全身に粘土のようなものでペイントした少女を撮っている。この「土の女」の存在感は、ヴィッキーよりもむしろジョアンヌに引き継がれ、アウトサイダー性がヴィッキーに引き継がれている。『アヴァ』で目隠しをした少女がひたすら波に打たれるシーンに顕著なように、レア・ミシウスは恐怖が直接体に触れるときのゾッとするような瞬間を捉えている。短編デビュー作『Cadavre Exquis(優美な屍骸)』(13)では、少女が女性の死体を沼地で発見する。少女は両親に内緒で死体を秘密基地に運ぶ。死体の白い手を沼地から取るときのゾッとする感覚。そして死体を切ろうとするときに少女が襲われる恐怖。これらは「恐怖の手触り」として触覚にも近い感覚を観客に伴わせる。


 本作において「恐怖の手触り」は、ゾッとするような冷たさから体の火照りへと反転していく。相手の顔に触れるような近さ、直に肌に触れるときの温度。ジョアンヌは大きな口を開けてジミーの顔に唾をかけるぐらいの勢いで口喧嘩をする。そしてジョアンヌは、ジミーと喧嘩したときと同じかそれ以上の顔の近さでジュリアとカラオケを歌う。自傷的な寒中水泳のみならず、日々の生活を無感覚に過ごすことを無意識に選んでいたジョアンヌの生が、急激に熱量を帯びてくる。



『ファイブ・デビルズ』©2021 F Comme Film - Trois Brigands Productions - Le Pacte - Wild Bunch International - Auvergne-Rhône- Alpes Cinéma - Division


 ヴィッキーはこれまで知ることがなかった母親の秘密の傷跡を知ることになる。この地域の凍えるような寒さによって冷却されていた傷跡。『アデル、ブルーは熱い色』で鼻水を垂らしながら、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたアデル・エグザルコプロス。無意識の抑圧を解き放つとき、彼女ほど生々しい体の火照りを体現できる俳優もまたいない。


 ジョアンヌは生きることへの体温を取り戻す。ヴィッキーが調合する香りは、抑制されていた記憶を蘇生させるための魔術として機能する。ジョアンヌとヴィッキーは、存在自体が傷跡として生きていかざるを得なかったジュリアの体を温める。魔女のように疎外されていた彼女たちの間に連帯が生まれる。炎と氷の反転。極点と極点の交感。本作はヴィッキーの魔術を介して、人には見えない傷跡の治癒を試みている。



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



『ファイブ・デビルズ』を今すぐ予約する↓




作品情報を見る



『ファイブ・デビルズ』

11月18日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

配給:ロングライド

©2021 F Comme Film - Trois Brigands Productions - Le Pacte - Wild Bunch International - Auvergne-Rhône- Alpes Cinéma - Division

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ファイブ・デビルズ
  4. 『ファイブ・デビルズ』秘密の傷跡、その向こう側