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『子猫をお願い』ペ・ドゥナという詩人、野良猫の狼煙

©2001 by IPictures and Masulpiri Pictures.

『子猫をお願い』ペ・ドゥナという詩人、野良猫の狼煙

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都市開発と地域猫



 『子猫をお願い』は都市開発の進むインチョンの、やがて消えていく風景を捉えている。郊外のインチョンからソウルは通える距離とのことだが、ヘジュは仕事帰りに乗る地下鉄に充満する豚キムチの匂いが大嫌いだという。コンプレックスの裏返しとして上昇志向の強いヘジュは、ソウルに引っ越す。キレイに整備された都会の風景と、この時代の寂れたスラム街の風景が対比されている。


 ジヨンの実家の天井は崩壊寸前だ。新聞紙で修復された天井からは、砂埃が落ちている。大家に相談したところで、住むのが嫌なら出ていけと理不尽な扱いを受けている。東京の都市とその周縁も一歩外に出れば、よく似た風景が広がっていることを私たちは知っている。ジヨンはこの町で野良猫を拾い、ヘジュへの誕生日プレゼントとする。


 遊牧民としての野良猫。野良猫たちにも自分たちの力ではどうにもできない現実がある。チョン・ジェウンは驚くべき傑作ドキュメンタリー『猫たちのアパートメント』(22)でも、都市開発によって消えていく風景を描いている。開発によって住み場を失くす野良猫たちを大移動させる作戦が実行され、それを題材としたこの作品は、奇跡的な距離感で猫と人間の共存生活を描きだす。愛玩動物として可愛らしい猫の生態をスケッチしていくのでなく、あくまで人間との共生者として猫の姿を捉えていく。夜の闇に光る猫の目。都市生活者としての野良猫たち。冒険映画としての新しい猫映画。野良猫たちのありのままの姿を描くこの作品は、二十歳の女性たちのありのままの姿を捉えた『子猫をお願い』の映画作家が寄せる関心にブレがないことを証明している。


『猫たちのアパートメント』予告


 『子猫をお願い』におけるインチョンの迷路のように狭い路地と、ソウルのショッピングセンター。本作ではこの対照的な二つのシーンが、等価のイメージとして空間演出されている。ショッピングセンター内で忙しなく動き回る五人組が、だんだん狭い路地を巡る野良猫たちのように見えてくるという映画のマジック。そして本作において最も野良猫のイメージを纏ったテヒ=ペ・ドゥナは、スラム街の狭い迷路のような路地を一人で突き進んでいく。




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