ペ・ドゥナという詩人
ペ・ドゥナが演じるテヒは、五人組の関係をつなぎ止める役回りを演じる。ヘジュやジヨンの人生における大事な場面にいつも彼女は付き添っている。彼女には、人によって態度を変えたりしない平等性がある。ジヨンにお金を貸すテヒは、お金ができたときに返してくれればいいと告げる。外国人労働者たちとも隔たりなく仲良くできるテヒは、ヘジュから「お人好し」呼ばわりされている。しかし彼女は鈍感だから他人に対して平等になれるのではなく、むしろ何事にも敏感すぎるから平等でいられるのだろう。テヒ=ペ・ドゥナは猫のような大きな瞳で、他者を観察している。
ヘジュの上昇志向が強烈なコンプレックスの裏返しであることを、テヒは他の誰よりも知っている。ジヨンに貸したお金が返ってこないかもしれないことを、彼女は初めから分かっている。テヒにはすべてが見えている。それもこれも含めて仲間を愛している。ここまで平等性のあるヒロインは他にいないのではないだろうか。テヒはいつも仲間のことを気にかけている。そしていつでもそこにいて欲しいタイミングで仲間の側にいる。テヒ=ペ・ドゥナの何者をも分けない平等性と遊牧民性に、筆者は憧れの気持ちを抱いてしまう。
『子猫をお願い 4Kリマスター版』©2001 by IPictures and Masulpiri Pictures.
ジヨンがヘジュにプレゼントしたことをきっかけに、五人組の間を渡り歩いていく野良猫ティティ。テヒの大きな瞳は、ティティの瞳によく似ている。ジヨンの家を訪れたテヒが、ジヨンの祖母からひたすら韓国饅頭を口に運ばれるシーンが素晴らしい。まるで餌を与えられる猫。チョン・ジェウンは、このシーンでペ・ドゥナに野良猫のイメージを重ねている。
ペ・ドゥナは本作の脚本を受け取ったとき、それほどピンとくるものはなかったと正直に語っている。しかしチョン・ジェウンが学生時代に撮った二本の短編映画に感激したことが彼女を動かす。その内の一本『Girl's Night Out』(99)という素晴らしい短編作品の中でインスタントカメラを構える少女の向こう側には、本作の冒頭で同じくカメラを構えるテヒのイメージが滲んでいる。ペ・ドゥナという俳優は、カメラのこちら側と向こう側の境界にいる詩人のような俳優なのだ。