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『ホワイト・ノイズ』ノア・バームバック流パンデミック映画にみる“死”への向き合い

WILSON WEBB/NETFLIX © 2022

『ホワイト・ノイズ』ノア・バームバック流パンデミック映画にみる“死”への向き合い

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コロナ禍での実体験が作品に強く影響



 まずは、バームバック監督がいかにして『ホワイト・ノイズ』に着手したのかをみていこう。Entertainment Weeklyのインタビュー記事によると、もともと彼は大学生だった頃に原作と出合い、コロナ直前の2019~20年に再読したそう。VOGUEのインタビュー記事から察するに、どうも『イカとクジラ』(05)や『マリッジ・ストーリー』含めて多大な影響を受けている彼の父親、ジョナサンの死も関係しているそう。再読したのは「喪に服している」タイミングだったという。バームバック父子を結ぶ思い出の一冊といえるかもしれない。


 さらにニューヨークタイムズのインタビュー記事を参照すると、賞レースシーズンで各地を飛び回っている最中にもバームバックは原作本を持っていたようだ(ローラ・ダーンの証言より)。そして、アダム・ドライバーにも電話して本著を薦めたそう(DeadlineのContenders Film: New York2022のレポートより)。



『ホワイト・ノイズ』WILSON WEBB/NETFLIX © 2022


 つまり、バームバックはコロナ前の時点でこの物語に傾倒していたということ。その後、ロックダウン中に目の前で起こっていること――自身のリアルタイムな経験を反映しつつ、脚本を練り上げていったという(ちなみに本作は彼が初めて原作を脚色した監督作とのこと)。バームバックから脚本を渡されたガーウィグは「私が冷蔵庫の前でアイスを食べている間に、あなたは素晴らしい脚本を書いた!と信じられないくらい嫉妬した」と微笑ましいコメントを残している(前述のContenders Film: New York2022にて)。


 パンデミックにおける人々の混乱を体験したこと――それがダイレクトに反映されているのは、エンドクレジットで象徴的に描かれるスーパーマーケットだ。LCDサウンドシステムのテーマソング「new body rhumba」が流れるなかスーパーで人々が踊り狂うフラッシュモブ的シーンは、“ど”が付くほどシニカルで強烈に記憶に残る。商品の表示を食い入るように見ながら踊る客、いかにも健康でございと謳うような真っ白なデザインの商品ばかり買う客、防護服を着て買い物をする客……その様相は、まさに狂騒。


「new body rhumba」


 パンデミック下でスーパーに赴いたバームバック監督は「まるで映画のようでした。トイレットペーパーが売り切れていたり、私たちが生きている“狂気”を感じました」と回想しているが、こうした経験が本作に冷笑的な“毒素”をもたらし、これまでのバームバック作品とは一味違うエグ味を生んでいる。





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