© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
『ボーンズ アンド オール』拭いがたい孤独感、思春期のためのR指定映画
2023.02.21
恐るべき大人たち
もっともグァダニーノの凄みは、作家としてのツイストを加え、映画としてのさらなる厚みをもたらしたところにある。本作はマレンとリーの旅路を追う“青春恋愛映画”であり、同時にホラー映画でもあるため、ふたりの障害となる大人たちをそれぞれ恐ろしい存在として登場させているのだ。
たとえば“人喰い”であることを隠しながら長年一人で生きてきた老人・サリー(マーク・ライランス)、危険な雰囲気をたたえたジェイク(マイケル・スタールバーグ)とブラッド(デヴィッド・ゴードン・グリーン)のカップル、そしてクロエ・セヴィニーやジェシカ・ハーパーが演じるふたりの女性。『サスペリア』でも見られた、ジャンプスケアを極力排した恐怖演出は、周囲を警戒するマレンとリーの心理にもうまくフィットしている。
『ボーンズ アンド オール』© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
もっとも『君の名前で僕を呼んで』にせよ、ドラマ「僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE」(20)にせよ、グァダニーノの目線はメインとなる青少年だけでなく、彼ら・彼女らを支える大人にも分け隔てなく注がれていた。そして、今回もそのことは変わらない。孤独から脱することができるかもしれないと考えてしまったサリー、一線を超えようとしているジェイクとブラッド、そして取り返しのつかない境地に到達した女性ふたりは、それぞれにマレンやリーに通じる孤独を抱えているのだ。それぞれの出番は決して多くないが、俳優陣の演技も忘れがたい印象を残す。
まだ若いからこそ葛藤し、彷徨うことしかできない孤独にも、一見すると恐ろしく見える大人たちの内面にも、グァダニーノはひたすらに真摯だ。当人たちが願わずして「はみ出してしまった」ゆえに湧き上がってくる純粋な思いと、それゆえの脆さ。『ボーンズ アンド オール』という映画は、そのありようをひたすらに、そして愚直に描き出していく。
[参考資料]
・『ボーンズ アンド オール』プレス資料
・‘Bones and All’ Writer David Kajganich Unpacks Cannibal Romance: Cuts, Changes, and That Ending
文: 稲垣貴俊
ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。
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『ボーンズ アンド オール』
絶賛公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
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