1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. フェイブルマンズ
  4. 『フェイブルマンズ』実体験に基づくダークサイド・オブ・スピルバーグ
『フェイブルマンズ』実体験に基づくダークサイド・オブ・スピルバーグ

© Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

『フェイブルマンズ』実体験に基づくダークサイド・オブ・スピルバーグ

PAGES


壊れた家族



 さらにこの映画では、両親の離婚についても赤裸々に語っている。ミシェル・ウィリアムズ演じるサミーの母親がそうであったように、スピルバーグの母親リア・アドラーは家族の親しい友人バーニー・アドラーと恋仲になり、夫アーノルドと離婚。ティーンエイジャーだったスピルバーグの心に暗い影を落とした。しかも不倫の事実を、彼は自分で撮影した8ミリフィルム・カメラの映像を通して知ってしまったのである。


 壊れた家族。そのモチーフは、スピルバーグの映画で繰り返し登場してきた。『未知との遭遇』のロイ・ニアリーは家族を捨てて宇宙へと飛び立ち、『E.T.』(82)のエリオット少年は父親の不在を受け止めきれずにいる。インディ・ジョーンズは『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(89)で和解するまで父親と絶縁状態にあり、『マイノリティ・リポート』(02)のジョン・アンダートンは息子を失ったトラウマで薬物中毒。『ターミナル』(04)に至っては、家族どころか国自体が崩壊してしまった設定だ。



『フェイブルマンズ』© Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.


 スピルバーグの記憶に最も生々しく迫った作品は、おそらく『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)だろう。ここでは、母親が父の知人と浮気していることがバレてしまい、瞬く間に家族が崩壊していく様子が描かれている。主人公フランクはカネさえあれば再び両親と仲良く生活できると信じ、詐欺に手を染めていく。


 スピルバーグは、自らの物語の断片を作品の中にそっと忍ばせてきた。だが比喩的表現ではなく、自分の記憶そのものをいつか映画化する必要があるとも考えていた。元々『フェイブルマンズ』の企画は、20年以上前からスピルバーグの胸のなかにあったという。


 トム・ハンクス主演映画『ビッグ』(88)の脚本家として知られる妹のアン・スピルバーグは、『I'll Be Home』というタイトルでシナリオも執筆している。だが離婚に踏み込んだストーリーを語ることで、スピルバーグは両親が傷つくことを極度に恐れた。彼は自分自身を語ることを躊躇し、逡巡し続けていたのである。


 「妹が書いた脚本を、兄が監督する」というプロジェクトは宙に浮いたまま、長い年月が過ぎ去っていった。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. フェイブルマンズ
  4. 『フェイブルマンズ』実体験に基づくダークサイド・オブ・スピルバーグ