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『フェイブルマンズ』実体験に基づくダークサイド・オブ・スピルバーグ
ZOOMでのセッション
プロジェクトが動き始めたのは、コロナ禍以降のこと。スピルバーグは語る。
「実際に映画を製作することを真剣に考えるきっかけになったのは、パンデミックが起きてからのことです。(中略)私は時間を持て余していました。ロサンゼルスのあらゆる場所…パシフィックコーストハイウェイ、カラバサス、トゥエンティナイン・パームスの近くまで、車を走らせて何時間もドライブしたものです。そうすることで、世の中で起きていることを考える時間が増えました。そして、自分がまだ語っていない物語の中で、もし語らなかったら自分に腹が立つものは何だろう、と考え始めました。それはいつも同じ答えでした。7歳から18歳の間の、私の人格形成期の物語です」(*1)
『フェイブルマンズ』のアイディア自体は、何年も前からトニー・クシュナーに相談していた。彼は、『ミュンヘン』(05)、『リンカーン』(12)、『ウエスト・サイド・ストーリー』(21)でタッグを組んだ名脚本家。スピルバーグの盟友ともいうべき存在である。
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「私が彼に、『フェイブルマンズ』を撮るように勧めたんだよ。『ミュンヘン』の撮影初日に、これを映画化するべきだと伝えた。それ以来、私は優しく後押ししてきた。そして、彼がいよいよやるぞと思ったとき、私は適切なプレッシャーをかけ続けて、この作品を前進させたんだ」(*2)
およそ3ヶ月間の間、週3日・1日4時間のペースで二人はZOOMでセッションを重ねる。そしてトニー・クシュナーはスピルバーグが語りかける言葉を丁寧に拾い集め、81ページにわたるドラフトへと仕上げていった。気心知れた仲とはいえ、家族の秘密や当時の自分が抱えていた葛藤をありのまま語ることは、スピルバーグにとって気持ちのいい作業ではなかっただろう。しかしトニー・クシュナーは彼を励まし、時には慰めることで、物語の輪郭を形作っていった。
まるでセラピーのようなプロセスを踏むことで、『フェイブルマンズ』は完成したのである。