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『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』ウェス・アンダーソンの創造性が生んだフィクショナルな家族の肖像

(c)Photofest / Getty Images

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』ウェス・アンダーソンの創造性が生んだフィクショナルな家族の肖像

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出演者どうしの”良質な関係性”が醸成されていく



 では、苛立ちを抱えたジーン・ハックマン以外のキャストはどうだったのかというと、皆少ないギャラであるにもかかわらず、撮影中も各々がリラックスして和やかな時を過ごしていたようだ。


 良質な空気が生まれた理由の一つには、象徴的に映し出される”屋敷”の存在があった。それは製作陣がNYで見つけたリアルな物件であり、外観も内装もこの上なく条件がぴったり。その一つ一つの部屋を各キャラクターへと割り当て、まるでそれぞれの内面世界を彩るかのように細かな装飾が施されていった。そのためグウィネス・パルトロウやベン・スティラーといった当時の多忙なキャストたちも、いざ屋敷内や部屋に入るとスムーズに役へ入り込むことができたという。


 また、出演者は休憩中に自身のトレーラーに戻ることができたものの、それだと無駄に時間がかかるため、屋敷内に設けられた居心地の良い休憩室にたむろしておしゃべりしたり、一服して親交を温めることも多かった。こうしてキャストたちの”共に過ごした時間”がそのまま良好な化学反応となり、映像に深く刻まれていったわけだ。



『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(c)Photofest / Getty Images


 現場の心地よさから創造的なものが生まれるーーー今ではすっかり当たり前となったこのアンダーソン組の特質だが、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の時点ですでに確かな実りをつけていたのは驚きである。しかし演技の面で言うならば、本作の魅力は決してそれだけでは終わらない。やはり何と言っても、ジーン・ハックマンが爆発的に素晴らしいのだ。


 彼の演じるロイヤルは、終始まるでガキ大将のような奔放さで周囲を翻弄し、自分勝手で、傲慢で、頑固。それでいて死を目前にした”最後の願い”と称し、バラバラになりかけた家族の絆を再びつなぎ合わせようとするのだから、これは実に面白くて痺れる役どころである。


 ハックマンの演技が文句なしの一級品なのはもちろんだが、彼が映画史の中で刻んできた骨太で豪胆で荒々しい魅力をきちんと活かし、トータルとして人間味あふれる人物へと昇華させたアンダーソンの采配はさすがと言うしかない。結果、ハックマンは本作でゴールデングローブ賞(主演男優賞)を受賞。この数年後には俳優業を引退してしまったこともあり、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は輝かしいキャリアの集大成としてふさわしい一作となった。




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