2023.04.24
難航したジーン・ハックマンとの出演交渉
中でもストーリーの方向性を決定づけたのは、ロイヤル・テネンバウムというキャラクターだった。当初からジーン・ハックマンを想定していた役柄を脚本内で掘り下げるにつれ、物語はいっそう破天荒で自由奔放な方向へ振り切れることに。
だが、肝心の出演交渉の段階に及んでみると、ハックマンは決して一筋縄ではいかない相手だった。そもそも本作は潤沢な製作費があるわけではないし、出演料はレジェンド級の俳優にとっては破格の安さ。その上、主人公はいろんな場面に顔を出さねばならないので、拘束期間もやたらと長い。
アンダーソンは「あなたを想定してこの役を書いた」と熱心に説得したものの、対するハックマンは「自分のことを念頭に書かれるのは好きではない」と返し(「俺の何を知ってるんだ?」という気持ちになるらしい)、なかなか話はまとまらない。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(c)Photofest / Getty Images
また、ハックマンが3人の子持ちで離婚経験者であることなども、気乗りがしなかった理由のようだ。それでも最後は、彼のエージェントが熱心に勧める形でしぶしぶ出演が決まったという。
ちなみに、いざ撮影が始まると、ハックマンが現場で声を荒げる場面も多かったそうで、一説では彼の集中砲火からアンダーソンを守るべく、出番のない日でもビル・マーレイがわざわざ立ち会ってくれたこともあったとか(*1)。『天才マックスの世界』(98)以来続く二人の固い連帯は、こんなところからも如実に窺えるのである。