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『ザ・フォッグ』映画のなかの「霧」はどのように描かれてきたのか?

(c)Photofest / Getty Images

『ザ・フォッグ』映画のなかの「霧」はどのように描かれてきたのか?

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アメリカの歴史に対する風刺



 霧から必死で逃げながら、やがて人々は、この港町に隠された恐ろしい秘密を知ることになる。百年前に起きた、エリザベス・デイン号の難破事故。船は深い霧のせいで岩に激突し、町に着く直前で沈没したと思われていた。それ以来アントニオ・ベイでは、海に霧がかかる夜には、亡くなったエリザベス・デイン号の乗員たちの幽霊が現れると言い伝えられてきた。だが、実はこれは町の創立者たちによって故意に引き起こされた事故だったと判明する。


 恐ろしい怪物だと思えた亡霊たちは、命だけでなく、財産も名前も声も、すべてを奪われた悲しき被害者たちだった。しかもハンセン病にかかっていた彼らは、療養所建設という嘘を信じて船に乗ってきた末に、無惨にも惨殺されたのだ。この亡霊たちの物語は、黒々とした影にしか見えていなかった彼らの輪郭を浮かび上がらせ、私たちにこう問いを突きつける。「本当に恐ろしいのは誰なのか? 忌むべき者は我々か、それともおまえたちか?」



『ザ・フォッグ』 (c)Photofest / Getty Images


 町の創立者=開拓者として称えられた者たちは、実は悍ましき殺戮者であり強奪者だった、そしてここに暮らす人々はみな悪党たちの子孫だった。これはまさに、先住民から土地を奪い繁栄を築いた、アメリカという国への痛烈な風刺だ。カーペンター自身、インタビュー集「恐怖の詩学 ジョン・カーペンター」(フィルムアート社)で、「この話全体は、西部開拓時代にカリフォルニアのサンタバーバラで実際に起きた事件に漠然ともとづいているんだ。それに、これまで存在したどの政府も、きっと同じようなことをしてきたに違いない」と語っている。『ニューヨーク1997』(81)や『ゼイリブ』(88)をはじめ、反体制、反権力の物語をつくり続けたカーペンターらしく、『ザ・フォッグ』にもまた、アメリカの建国物語に対する異議申し立てがしっかりと込められている。





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