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『ダンサー・イン・ザ・ダーク』アンチ・ミュージカル、アンチ・アメリカ ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』アンチ・ミュージカル、アンチ・アメリカ ※注!ネタバレ含みます。

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『ダンサー・イン・ザ・ダーク』あらすじ

60年代のアメリカ。チェコからやってきたセルマは女手ひとつで息子のジーンを育てながら工場で働いている。セルマを母のように見守る年上の親友キャシー、何かにつけて息子の面倒を観てくれる隣人ビル夫妻、セルマに静かに思いを寄せるジェフ。彼女に対して理解と愛情を持つ人々に囲まれ満ち足りた生活を送っていたが、セルマには誰にも言えない悲しい秘密があった。彼女は遺伝性の病のため視力が失われつつあり、ジーンも手術を受けない限り同じ運命を辿ってしまうのだった。愛する息子に手術を受けさせるために懸命に働くセルマ。しかし、ある日工場を解雇されてしまい、大事な手術代まで盗まれていた……。


Index


メロドラマとしてのミュージカル映画



 『イースター・パレード』(48)、『踊る大紐育』(49)、『雨に唄えば』(52)、『バンド・ワゴン』(53)。ミュージカル映画は、最もアメリカ的な芸術表現のひとつだ。フレッド・アステア、ジーン・ケリー、ジュディ・ガーランドといったキラ星のごときスターたちが、スクリーンの中で踊り、歌う。その華麗な世界に、世界中の人々が虜になった。デンマークのコペンハーゲンで育ったラース・フォン・トリアー少年も、その一人。テレビに映し出されるハリウッド産ミュージカルに夢中になった。


 しかしトリアー少年の心を掴んだのは、豪華絢爛なエンターテインメント性ではなく、そのメロドラマ性にあった。彼は『ウエスト・サイド物語』(61)を評して、「オペラ的である」(*1)と語っている。観る者を高揚させる歌とダンス、それでいて心を引き裂くような悲劇性。そのアンビバレンツさに、トリアーは宿命的なまでに惹かれたのかもしれない。


 やがて映画監督となった彼は、世界を罠にかけ、嘲笑し、弄ぶかのような、エキセントリックかつハードエッジな作品を次々に発表。『ヨーロッパ』(91)でカンヌ国際映画祭審査員賞、『奇跡の海』(96)でグランプリを受賞。そして『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)では、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞し、知名度を一気に押し上げた。



『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(c)Photofest / Getty Images


 とはいえ、やはりこの作品も過去作に負けず劣らず、エキセントリックかつハードエッジな内容。本作の主人公は、チェコからの移民である女性セルマ(ビョーク)。先天性の病気のため彼女の視力は失われつつあり、このままだと息子のジーンも失明してしまう。手術費用を稼ぐため、身を粉にして働く日々。親友のキャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)とミュージカル映画を観に行ったり、工場のプレス音のリズムでミュージカルを夢想してみたり、華やかな音楽の世界に没入することで、少しでも過酷な現実を忘れようとしていた。


 ところが、借金で首が回らなくなっていた警察官ビル(デヴィッド・モース)にお金を持ち逃げされ、揉み合っているうちに誤って彼を射殺。逮捕されたセルマは、共産主義国からの移民であることで不当に差別され、息子の手術代を残すために弁護士を雇うこともできない。第一級殺人の罪で、彼女には絞首刑が言い渡されてしまう…。


 何ともヒドい話だ。こうして自分であらすじを書いていても、暗澹たる気持ちになってしまう。少年時代に観ていた夢の世界を、ラース・フォン・トリアーはかなり特殊な形で蘇らせてしまったのだ。




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