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『ジェーンとシャルロット』母親であり永遠の娘であること

© 2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms

『ジェーンとシャルロット』母親であり永遠の娘であること

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マンキーズ・ダイアリー



 シャルロットの言葉によると、ジェーンは外向的、シャルロットは内向的な性格だという。しかしジェーンの日記「Munkey Diaries」を読むと、ジェーンもまた内向的な性格だということがよく分かる。シャルロットの前では“母親”という役割を演じるために、外向的に見せる必要があったのかもしれない。ジェーンの日記で一番印象に残るのは、どんなときも三人の娘たちのことを心配している母親の姿だ。間違いなくシャイだが、カメラの前ではびっくりするくらい大胆になれる。どこかで聞いたことのある矛盾。まさにシャルロットの身近にいる多くの人たちが、彼女について形容してきた言葉と完全に一致している。


 ジェーンの日記のタイトルとなったMunkey=マンキーは、セルジュ・ゲンズブールのアルバム「メロディ・ネルソンの物語」のジャケットで、彼女が抱いているぬいぐるみの名前だ。ジェーンは大人になってもマンキーを連れ歩いていた。マンキーを連れずに飛行機や電車に乗ったことはないという。マンキーはセルジュの棺に一緒に入れられた。



『ジェーンとシャルロット』© 2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms


 子供時代のジェーンの容姿は、ボーイッシュというよりほとんど少年のように見える(子供時代のジェーンの姿は、アルバム「冬の子供たち」のジャケットで確認できる)。少女でも少年でもない12歳のジェーン。ジェーン曰く、“社会的偽装”が始まる前の自分の姿。“12歳という魔法の年齢”。子供時代のジェーンは、自分で髪を切っていた。男の子の服を着たがっていた。そして子供時代の未分化な性、アンドロジナス性は、ジェーンのキャリアを考える上で重要なモチーフとなる。セルジュ・ゲンズブールによる永遠の名作『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』(76)にも明らかなように、セルジュはジェーンのアンドロジナス性を愛した。そしてジェーンの独特なアンドロジナス性は、シャルロットへ受け継がれることになる。幼い頃から自分だけの世界を持っていたシャルロット。ジェーンはそう指摘するが、同じことは少女時代のジェーンにも当てはまるのだろう。二人の人生の軌跡はとてもよく似ている。


 ジェーンは幼い頃からカメラと深い関わりを持ってきた。兄アンドリュー・バーキンが子供時代に撮った自主映画を、自身の最高傑作と語るジェーン。シャルロットが『ジェーンとシャルロット』で、様々なカメラを使用しているのは意味がある。特にスーパー8の使用は、ジェーンとセルジュが家族を撮ったプライベートフィルムへのオマージュだ。ジェーンはスーパー8で撮られたアーカイブ映像を編集して、自身の監督作品として世に送り出している。そして『ジェーンとシャルロット』における、シャルロットがカメラを構える姿は、姉であり写真家だったケイト・バリーのことを想起させる。シャルロットによる一家とカメラの関わりへの探求が、さり気なく作品全体に施されている。





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