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『ジェーンとシャルロット』母親であり永遠の娘であること

© 2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms

『ジェーンとシャルロット』母親であり永遠の娘であること

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永遠の娘



 ジェーン・バーキンは『アニエスv.によるジェーンb.』の中で、いつか家族の映画を撮りたいと語っている。“家族の映画”は、ジェーン・バーキンの発案によるアニエス・ヴァルダ監督『カンフー・マスター!』(88)で一度実現し、『ジェーンとシャルロット』で完成形に到る。本作にヴァルダの名前が出てくるのは必然のことだろう。シャルロットの次女ジョーが守護天使のように登場する。シャルロットに本当によく似た幼い少女。かつてヴァルダがジェーンの不安を和らげるために自身も一緒に被写体になったように、シャルロットは自分の不安を和らげるために娘のジョーを本作に出演させている。


 ジェーンはジョーのことが気がかりなようで、いまのジョーを記録として映画作品に残しておくようアドバイスを送る。すべてが変わってしまう前に。ヴァルダの言葉を経由するジェーンのアドバイスは、カメラの前で生きてきたバーキン家の系譜を正しく継ぐ言葉だ。ジェーンの母ジュディ・キャンベルもまたスクリーンで活躍した俳優であり、ジェーンやシャルロットと同じように、舞台で歌うことの恐怖に怯えていた有名人だった。


 日本から始まる本作にはロードムービーのような趣がある。イギリスからフランスに渡った、異邦人であるジェーンの人生の歩みに合わせるかのように。ジェーンには『放蕩娘』(81)という作品がある。ジャック・ドワイヨンによるこの映画に出演したことで、ジェーンは一つの場所に留まらない自身の性分を自覚する。



『ジェーンとシャルロット』© 2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms


 ジェーンは社会活動や人道支援に熱心な人だった。路上でプラカードを掲げデモの列に並ぶこともあった。東日本大震災の際には、放射能の危険が報道される中、日本行きの空席だらけの飛行機に乗り、誰よりも早くチャリティー活動に向かった。ジェーンは不安を武器に変える。ジェーンは物事を揺さぶる自由を体現する。移動に重きを置く本作は、自分の感情のために常に動き続けた、ジェーンの哲学を尊重している。


 2023年7月16日、ジェーン・バーキンが亡くなる。筆者は本作をジェーンが亡くなる前と後の両方の時間に見ている。元々ジェーンの終活のようにも感じられた本作が、本当に終わりの作品になってしまったことに悲しみが堪えない。ジェーンは本作で自分の死についても語っている。そのときにシャルロットが見せる、どうしていいか分からないような表情が忘れられない。


 『ジェーンとシャルロット』には、母親と一緒に年を重ねること、それでも母親とずっと一緒にはいられないことが表出されている。ジェーンが母親であり“永遠の娘”だったように、シャルロットも母親であり“永遠の娘”であることを受け継いでいくのだろう。何が本当にカッコよいことかを教えてくれたジェーン。この場を借りて、ジェーン・バーキンという女性が生きたスタイルとアティテュードに心からの感謝を伝えたい。メルシー、ジェーン!



*1 Liberation [Interview croisée «Jane par Charlotte» : «Ma mère a eu peur que mon projet prenne l’allure d’un règlement de comptes»

*2 Jane Birkin interviewed by Stuart Mabey (2009)



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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作品情報を見る



『ジェーンとシャルロット』

8月4日(金)より ヒューマントラストシネマ有楽町 / 渋谷シネクイントほか全国順次公開

配給:リアリーライクフィルムズ

© 2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms

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