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『アンストッパブル』トニー・スコット最期の傑作。シンプルな構造にみなぎる躍動感とリアリティ

(c)Photofest / Getty Images

『アンストッパブル』トニー・スコット最期の傑作。シンプルな構造にみなぎる躍動感とリアリティ

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暴走列車のサウンドに、動物の鳴き声をミックス



 鮮烈な真っ赤なボディを持つ暴走列車の機関車は、皮肉なことに「777」という車両ナンバーを持つ。別名”ザ・ビースト”。これがけたたましい轟音を響かせながら線路を走行していくわけだが、実のところこのサウンドには、象やサイなどの動物たちの鳴き声がミックスされているという。


 なるほど、そうやって知ってから耳をそばだてると、この轟音が動物的な生存本能や狂気に満ちた”叫び”のようにも聞こえてくるから不思議だ。


 この777の巨体に比べると、デンゼル&クリスが乗り込んで現場へと急行する機関車「1206」は比較的小型だ。力と力でぶつかり合っていては勝ち目など見込めない。だからこそ操縦する二人のコンビネーションが重要となる。こうやって線路上で対峙する二つの車両は、さながら巨人ゴリアテと、それに投石ひとつで立ち向かうダビデの構図とよく似ている。



『アンストッパブル』(c)Photofest / Getty Images



少ないテイク数で、複数のカメラを回して撮る!



 また、本作は製作費をできるだけ抑えることが求められた。限られた予算と日数で全てのカットを撮り切るためにはどうすべきか。長年にわたって映画界の第一線を走り続けるスコットが、自らの経験に基づいて提案したのは、金のかかるCG描写を最小限にしてとことん実写主義でいくこと。その上で、様々なレンズを搭載したカメラを複数同時に回し、少ないテイク数でも無駄なく必要な分だけの映像をしっかり撮り上げることだった。


 例えば走行中のシーンであれば、線路を並走するクレーン付き車両から複数のカメラが列車の様子を捉え、線路脇、あるいは線路の真下にもカメラが固定設置され、はたまた、列車のそばを飛ぶヘリから列車の操縦室を覗き込んだカットが撮られたり、時にはNASAが開発した超望遠カメラが主演二人の表情をアップで克明に捉えたりもする。


 さらには操縦室の周囲には円形のレールが敷かれ、カメラがそこをぐるぐると回りながら撮ることで、スコット作品のトレードマークともいうべきダイナミックな回転映像が結実した。


 少ないテイク数で多くのカメラを一気に回すことは、時間や費用を抑えるだけでなく、俳優陣が同じシーンを何度も演じるストレスを軽減し、なおかつ、彼らがカメラの位置を意識することなく自然に演技にのめり込める状況をも作り出した。


 こうやって記録された膨大な映像は、編集作業においてまるで絵具のように緩急自在に彩られていく。トニー・スコットはインタビューや音声解説の中で「僕はもともと画家だったから」という言葉をよく用いるのだが、彼にとって映画づくりとは、まさに90分なり120分なりの壮大なキャンバス上で思う存分に筆を走らせる、そんな絵画製作の延長線上にあるものなのかもしれない。




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