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『アンストッパブル』トニー・スコット最期の傑作。シンプルな構造にみなぎる躍動感とリアリティ

(c)Photofest / Getty Images

『アンストッパブル』トニー・スコット最期の傑作。シンプルな構造にみなぎる躍動感とリアリティ

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『アンストッパブル』あらすじ

ペンシルべニア州の操車場。ベテラン機関士のフランクと新米車掌ウィルは初めてコンビを組み、旧式の機関車1206号に乗り込むことに。一方、別の操車場ではブレーキ操作のミスが発生。最新の機関車777号の牽引による全長800mの貨物列車が無人のまま走り出してしまった。しかも危険性の高い化学物質と大量のディーゼル燃料を積んでいて、脱線すれば大惨事になる。あらゆる手立てで暴走列車を止めようとするがいずれも失敗。残された最後の手段は、フランクとウィルが乗る1206号を暴走列車の最後尾に連結させ、ブレーキでその暴走を止めること。全ての命運はフランクとウィルに託されたのだった…。



 トニー・スコットが68歳の生涯を終えてから11年を迎える。


 彼が遺した16本の長編映画たちは、いずれも娯楽性に富み、なおかつ決して魂を安売りすることのない芸術性を兼ね備えていた。いわゆる甘ったるい演出をとことん排除し、カメラワークは光の速さで飛び交い、骨太なドラマとアクションが観る者の心臓をズドンと撃ち抜くーー。映画界広しと言えどもこれほど体感的で、躍動的な作風を貫き続けた人も珍しいのではないだろうか。


 『アンストッパブル』(10)はそんな彼の最期の作品だ。98分というちょうどいいサイズの中にいっさい無駄がなく、見どころは盛り沢山。何度も繰り返しの鑑賞に耐えうる、まさに”映画の教科書”のような一作と言える。


『アンストッパブル』予告


Index


”人間”をしっかりと描き込む



 トニー・スコットはデンゼル・ワシントンから、「ぜひ目を通してみてほしい」と本作の脚本を紹介されたという。


 本作を含め5本のトニー作品で主演を担ったデンゼルだけあって、いかなる作風がこの監督にピッタリなのか、その傾向を誰よりも熟知しているのだろう。案の定、トニーはこの脚本にたちまち取り憑かれ、映画本編と同じ90分ほどで読み終えてしまった上で、これをぜひとも映画化したいと心に決めた。


 本作に複雑な構造は見当たらない。主人公は鉄道の世界で働く男たち。一人は入社したばかりの新人で、もう一人は定年近いベテランだ。それぞれ私生活に悩みを抱えた二人が、線路内で制御不能のアンストッパブル状態に陥った列車を止めるべく死力を尽くすーー。かくも本作は、単純明快なアクションであると同時に、手に負えない人生の問題をなんとか制御しようともがく、主人公たちの投影図にもなりえているところがまた巧い。



『アンストッパブル』(c)Photofest / Getty Images


 スコットはまず、脚本家のマーク・ボンバックを引き連れ、実際に鉄道業界の世界を覗いてみるところから始めた。そこで職員の仕事に密着し、なおかつ彼らの日々の暮らしや家庭生活、各々が抱える悩みなどにも耳を傾け、その情報をどんどん取り入れてキャラクターを肉付けしていった。


 両主人公から醸し出されるむせ返るほどのリアリティは、いずれもこういった生の声、生の暮らしが反映されたものだ。これは何も本作に限ったことではない。トニー・スコット作品はいつも「人間」をメインに据えながら、その過程でストーリーが自ずと生き物のように膨らんでいく。最初からアクションありきなのではなく、どうやってそこへといざなわれるのか、たどり着くのか、その過程が何よりも大切なのだ。





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