「疾走」と「躍動」を紡ぎ続けた映画人生
遺作の『アンストッパブル』を経た上で、この『少年と自転車』に舞い戻って気づかされることは二つある。
まず、トニー・スコットという人は、こうして自身がスクリーンに初登場した作品から「疾走」と共にあったという事実。自転車、戦闘機、フォーミュラカー、潜水艦、列車……。その後の人生において、これほど幅広い移動手段を駆使して物語を、そして映画を紡ぎ続けた人も珍しいのではないか。
さらに『少年と自転車』では、列車の姿こそ描かれないものの、人々を町から町へと運び、なおかつ工業地帯にとって輸送の生命線だったであろう「線路」が、延々と伸びゆく様が記録されている。少年と線路が同時に映し出される時、それは未来へ伸びゆく無数の可能性にさえ思えるほどだ。
『アンストッパブル』(c)Photofest / Getty Images
鉄道が生活に根付いた都市にとって、こういったものはごくありふれた風景なのかもしれない。だがそれにしても、最晩年のトニー・スコット監督が、『サブウェイ123 激突』(09)と『アンストッパブル』というラスト2作で列車の映画を作り出した事実に、筆者の感情はにわかにたかぶる。
一人の男の人生がこの長い長い線路上を巡り巡っていたかのような、そんな不思議な感覚を、ファンの一人として抱かずにいられないのである。
参考資料:
『アンストッパブル』ブルーレイ 音声解説
『デュエリスト-決闘者-』DVD収録短編『少年と自転車』
「リドリー・スコットの世界」ポール・M・サモン/尾之上浩司訳/扶桑社
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
(c)Photofest / Getty Images