2023.09.22
リンクレイターが挑み続けた“時間の問題”
リンクレイター監督の撮ってきた様々な作品に、あえて共通点を見出すとすれば、“時間”を問題としている点が挙げられるだろう。われわれは人生を時間感覚でとらえているし、映画は時間をコントロールする芸術である。そして時間のなかには「聖なる瞬間」を作り出すこともできる。
「聖なる瞬間」を「聖なる瞬間」だと意識することで、その瞬間を強化できていくように、人生の時間を無駄にしないよう、日常のなかに特別な時間を意図的に見つけ出すことができれば、特別な時間を増やしていくことができるはずである。それはつまり、生きて物事を認識することができる限り、誰もが人生を自分の意志で輝かせ、充実させられる可能性があるということだ。
『バーナデット ママは行方不明』Wilson Webb / Annapurna Pictures
本作の冒頭で、南極の景色とともに語られていたのは、人生の価値についての考え方だった。車を買ったり家を買ったり、ダイヤモンドの指輪を買えば、束の間、人はときめいていられる。だが、いつしかその特別な意識は、時間とともに平凡な日常のなかに埋もれていき、ダイヤの輝きに気づかなくなってしまう。そうやって、かけがえのないはずの人生の価値を見失ってしまうのだ。
『バーナデット ママは行方不明』は、そんな時間の問題に、一つのポジティブな答えを見出した作品だといえるのではないか。その意味で本作は、リチャード・リンクレイター監督の集大成であり、あるいは一つの区切りを示す作品になるのかもしれないと考えられるのである。
文:小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
Twitter:@kmovie
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『バーナデット ママは行方不明』
9月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド
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Wilson Webb / Annapurna Pictures