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『バーナデット ママは行方不明』リチャード・リンクレイターの集大成に見出せる一つの答えとは?

Wilson Webb / Annapurna Pictures

『バーナデット ママは行方不明』リチャード・リンクレイターの集大成に見出せる一つの答えとは?

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『6才のボクが、大人になるまで。』からの再挑戦



 娘のビーは、バーナデットの建築家としての業績を特集した過去の番組を見ながら、自分の母親が引退した理由を調べていく。その過程で、彼女が打ち込んでいた仕事の規模の大きさ、斬新さや発想の鋭さ、そしてどれほどいきいきと新しい分野で活躍していたかを知ることとなる。ちなみに、映像のなかで複数の人々が証言していくことで謎を追っていくという構成は、『ウェイキング・ライフ』(01)のそれを想起させられる。


 奇しくも日本で近い時期に公開される、フィンランドのドキュメンタリー映画に、建築家のアルバ・アアルトの人生の足跡を追った『アアルト』(2023年10月13日公開)がある。そのなかでは、同じく建築家である、妻のアイノ・アアルトの存在が大きなものとして言及されている。本作のバーナデットの立場は、類稀な才能を持ちながら、夫の活躍の陰で次第に後ろに下がっていったアイノの境遇を思い起こさせる。そういう意味で、本作のリアリティには強いものがあるといえよう。


 リンクレイター監督が、本作へのコメントのなかで、「世界で最も危険な人物は、仕事がない芸術家だ」といった言葉を紹介しているように、豊富なアイデアが脳から奔流のように次々流れ出してくる天才的な人物が、適切なアウトプットを突然止めたらどうなるのか……。地域や社会に適合できず、意気消沈したり、無軌道な行動を始めてしまうのも分からないことではない。そんなバーナデットの状況の一因となっていた夫のエルジーは、だからこそ“無責任にも”彼女の変化に危機感を覚えていたのかもしれない。



『バーナデット ママは行方不明』Wilson Webb / Annapurna Pictures


 ここで思い出すのは、『6才のボクが、大人になるまで。』(14)だ。一人の人物の、小さな頃から大学入学までを描く物語の結末部分で、主人公の青年は母親の知られざる心の内を吐露されて戸惑う描写がある。彼女は子育てや家の仕事に忙殺されることで、自身のやりたいことにおそれず飛び込めるような若い時期を、いつしか通り過ぎてしまっていたことに、やりきれない思いを抱いていたのだ。この部分は、リンクレイター監督自身が、自分の母親の姿を想定していたと解説している。


 『6才のボクが、大人になるまで。』が、何とも後味悪く終わってしまうのは、そんな一人の女性の後悔や主人公が背負うことになる罪悪感に、解決策を見出せないままだからだ。しかし今回、もう一度そのテーマを描く機会が、リンクレイター監督に巡ってきたのである。


 そして本作の舞台は、南極へと移る。合成ではなくロケ撮影を強く希望したケイト・ブランシェットの熱意によって、グリーンランドで撮影された氷山や海の姿は非常に美しい。そこで自分の道を見失ってしまったバーナデットの“魂”が再び蘇る場面は、ブランシェットの畢生の演技といえよう。そして同時に、リンクレイター監督が過去に置いてきたテーマをポジティブな方向へ昇華させたという意味でも、本作は意義深いものになっている。





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