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『バーナデット ママは行方不明』リチャード・リンクレイターの集大成に見出せる一つの答えとは?

Wilson Webb / Annapurna Pictures

『バーナデット ママは行方不明』リチャード・リンクレイターの集大成に見出せる一つの答えとは?

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“聖なる瞬間”をもたらす「タイム・アフター・タイム」



 仕事から一時離れた女性が、出産を経てキャリアへの復帰を断念するケースは、現在もさまざまな国、いろいろな分野で見られる傾向だ。そこに旧弊な社会環境や因習などの影響がないといえば嘘になってしまうだろう。バーナデットの魂の再生が、劇中の女性たちの助けによることを考えれば、本作は女性同士が連帯する「シスターフッド」作品であり、不公平な社会のなかで女性をチア・アップする作品だともいえる。そんな連帯のなかで、社会をより良い状態にしようと貢献する行動が、自身の希望に繋がっていくという流れは感動的だ。


 そして、最もバーナデットを信頼し、最初から最後まで味方であり続けたのは、“親友”である娘のビーである。二人で車に乗りながら、シンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」を歌うシーンは、本作のなかでも印象深い瞬間だといえる。



『バーナデット ママは行方不明』Wilson Webb / Annapurna Pictures


 『ウェイキング・ライフ』では、映画や人生における「聖なる瞬間(The Holy Moment)」について言及される箇所があった。そこで語られるのは、自分の人生にとってかけがえのない瞬間というものが存在すること、そしてその瞬間を“かけがえのない瞬間である”と認識する意識も存在し得るということだ。そして、人はそのこと自体をさらに認識することもできる。このように、意識はレイヤー状に積み重ねられていく。


 それを踏まえると、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(95)や、『ビフォア・サンセット』(04)などの映画は、そんな人生のなかの特別な瞬間と、それを特別なものとして愛おしむ感情によって“層を成した”作品だった。そして、それをさらに凝縮して象徴していたのが、それらの作品の劇中における、試聴ブースでレコードを聴くシーンであり、ジュリー・デルピー演じる女性がCDプレイヤーから流れる曲を口ずさみ、おどけて踊るシーンだったといえる。


 本作『バーナデット ママは行方不明』の内容を暗示する歌詞を持つ「タイム・アフター・タイム」もまた、ここでは映画全体を象徴する「聖なる瞬間」だと考えられる。全寮制の学校へ行くために家を出て行くかもしれない娘と、シンディ・ローパーの曲を車内で熱唱するとき、これが最後かもしれないと考えるバーナデットは思わず涙ぐむ。実際、人生におけるこのような機会は、何度もあると思っていても、じつはごくわずかなものだ。そして、これを特別な瞬間だと認識するバーナデットの意識が、この瞬間をより特別なものにしているのである。





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