2023.09.22
『バーナデット ママは行方不明』あらすじ
シアトルに暮らす主婦のバーナデット。夫のエルジーは一流IT企業に勤め、娘のビーとは親友のような関係で、幸せな毎日を送っているように見えた。だが、バーナデットは極度の人間嫌いで、隣人やママ友たちとうまく付き合えない。かつて天才建築家としてもてはやされたが、夢を諦めた過去があった。日に日に息苦しさが募る中、ある事件をきっかけに、この退屈な世界に生きることに限界を感じたバーナデットは、忽然と姿を消す。彼女が向かった先、それは南極だった──!
Index
- リチャード・リンクレイターの集大成
- 過去のリンクレイター作品へのリンク
- 『6才のボクが、大人になるまで。』からの再挑戦
- “聖なる瞬間”をもたらす「タイム・アフター・タイム」
- リンクレイターが挑み続けた“時間の問題”
リチャード·リンクレイターの集大成
アメリカのインディーズ映画のカリスマとして知られ、実験的な作風で何度も映画史全体に重要な足跡を残しながら、メジャーの製作現場で娯楽作をも手がけてきた、リチャード・リンクレイター監督。その充実した作品群のなかでも、ある意味一つの集大成となったのが、『バーナデット ママは行方不明』だ。
なぜ本作が集大成の意味を持つのか。それは、これまでのリンクレイター作品の様々な要素が、この一作のなかに収まっているからだ。何よりも驚かされるのは、実験的といえる点までもが自然なかたちで構成や演出に貢献しているところ。それでいて本作は、娯楽作品として高い完成度で成立し、リンクレイター監督のフォロワーでなくとも楽しめる映画となっている。
『バーナデット ママは行方不明』Wilson Webb / Annapurna Pictures
原作は、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーに入り、2013年に全米図書館協会アレックス賞を受賞した、マリア・センプルのYA(ヤングアダルト)小説。その内容は、手紙やメールの文章によって構成される冒険コメディだ。共同で脚本も手がけるリンクレイター監督は、その構成を巧みに劇映画のスタイルに変換させ、高度な映画への理解と哲学的な思考によって、見事に原作を再構築している。
物語の中心となるバーナデット・フォックス役には、早い段階で名優ケイト・ブランシェットが手を挙げたという。必然的に本作は、リンクレイター監督とブランシェットの創造性のコラボレーションの性質をも持ったものとなった。本作を鑑賞すれば、ブランシェットが役を切望した理由を誰もが理解できることだろう。これほど多面的な魅力と背景を持ち、キャラクターのなかに様々なテーマが設定できる主人公は、そうそういないはずである。