1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ひなぎく
  4. 『ひなぎく』破壊と創造のマリオネット
『ひなぎく』破壊と創造のマリオネット

©:State Cinematography Fund

『ひなぎく』破壊と創造のマリオネット

PAGES


二人の芸術家の結晶



 「ヴェラ・ヒティロヴァーは出会ったばかりの衣装デザイナー兼脚本家のエステル・クルンバホヴァーと共に『ひなぎく』をデザインしました。今にして思えば、この映画が二人の女性の想像力の結晶であったことが、当時いかに異常なことであったかを思い知らされます。あの時代の誰とも違う創造性、エレガンス、気品を備えた二人の女性。」(マリエ役:イトカ・ツェルホヴァー)*1


 『ひなぎく』の美術、衣装、共同脚本を手掛けたエステル・クルンバホヴァー。当初ヴェラ・ヒティロヴァーは外部の脚本家に協力を求めるつもりはまったくなかった。しかしエステル・クルンバホヴァーの才能との出会いにより、彼女にとって初めての色彩映画が自分の能力以上のネクストレベルに到達できる可能性があることを知る。エステル・クルンバホヴァーは、『闇のバイブル/聖少女の詩』(70)の脚本兼美術を務めるなど、チェコ・ヌーヴェルヴァーグの最重要人物の一人として知られている。衣装とは単なる衣服のことではなく“出来事”だと主張する彼女の本作への功績は計り知れない。本作には色彩やセットによる前衛的な実験の趣が強い。マリエたちが貪るように消費する食べ物も、エステル・クルンバホヴァーの主要なテーマだ。本作において食べるという行為もまた破壊行為として描かれている。



『ひなぎく』©:State Cinematography Fund


 撮影を手掛けたヴェラ・ヒティロヴァーのパートナー、ヤロスラフ・クチェラによると、『ひなぎく』の撮影が理想的だったのは、映画のルックを決める最初期の段階から、監督とカメラマンとプロダクション・デザイナーの間で話し合いが行われたことだったという。監督や脚本のヴィジョンを再現するのではなく、映画の方向性自体を全員で決めていくプロセス。このプロセスによってヴェラ・ヒティロヴァーは自分の限界を超えていくような映画制作に成功する。


 共同創作により自分自身を超えていくこと。そのプロセスから生まれるドキュメンタリー性こそが彼女の狙いだった。出来上がったものに、まず最初に監督が驚く。マリエ役を務めたイトカ・ツェルホヴァーのインタビュー記事によると、二人のマリエへの指示は「みんなの邪魔をして」の一言のみだったこともあったという。たしかに本作には1秒1秒に事態や表情が変化していくような驚きがある。


 精巧に作り込まれているようで、やけに生々しいドキュメンタリー性。そもそも人形を名乗る生身の少女という時点で大きな矛盾を内包している。こういった二律背反的な創作の姿勢は、『ひなぎく』で完全開花に至るまでのヴェラ・ヒティロヴァーの初期作品群の実験ともつながっている。初期のヴェラ・ヒティロヴァーは、少女たちによる小さな連帯や遊戯、そして当時の女性の選択肢の狭さをテーマに珠玉の作品を撮っている。また『ひなぎく』にはファッションモデルとして活動していたヴェラ・ヒティロヴァーの経験も存分に生かされている。衣装やメイク等、はっきりとした好みが反映されている。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ひなぎく
  4. 『ひなぎく』破壊と創造のマリオネット