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『ゴーストワールド』キレイな世界の裏にある、押し殺された感情たち

(c)Photofest / Getty Images

『ゴーストワールド』キレイな世界の裏にある、押し殺された感情たち

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『ゴーストワールド』あらすじ

幼馴染のイーニドとレベッカは、学校にも家庭にも覚めた感情を抱いている、はみ出し者同士だ。高校を卒業後、進学も就職もせずフラフラしていた2人は、ある日イタズラで出会い系広告に応募する。彼女たちは、呼び出された冴えない中年シーモアが、待ちぼうけを食っている惨めな姿を見て暇を潰した。だがやがて、イーニドは世間になじめないシーモアにシンパシーを感じて親しくなっていく。一方レベッカはコーヒーショップで働き始め、少しずつ自立していった。こうして、親友だったレベッカとイーニドは段々とすれ違ってゆく・・・。


Index


『ゴーストワールド』という伝説



 どこにでもありそうなアメリカの住宅街の風景。アパートの窓から窓へ。カメラはそこに住む人のなんでもない姿を、漫画のコマ割りのように順に捉えていく。鳴り響く狂騒的でサイケデリックなインド産ロックンロール。テレビモニターには狂ったかのようなダンスを披露するインド人たち。赤いローブを着たイーニド(ソーラ・バーチ)が、痙攣を引き起こしたかのようなボリウッド産のダンスの真似をしている。ダンサーの動きに合わせて激しく首や手首を振るイーニド。理解のできない歌に合わせて、少女ははしゃぎ続ける。住宅街の小さな叫び!翌日は高校の卒業式。退屈な卒業式を終えたイーニドとレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)は、校舎に向けて勢いよく中指を立てる。


 この最高としか言いようのない『ゴーストワールド』のオープニングは、イーニドとレベッカが特別なコンビだということを瞬く間に教えてくれる。アメリカでの公開から20年が経った現在、『ゴーストワールド』は伝説的な作品として、イーニドとレベッカは伝説的な二人として、多くのファンを虜にしている。2017年にロサンゼルスのシネスピアで行われた上映イベントでは、イーニドのコスプレをした新世代のファンを目の当たりするソーラ・バーチという、美しい図さえ生まれている。


『ゴーストワールド』予告


 また、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(19)を撮ったジョー・タルボットは、本作に多大な影響を受けたことを告白している。『ゴーストワールド』と同じく「街の映画」である『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』には、イーニドの黒縁メガネをアクセサリーとして身に着けたソーラ・バーチが登場する。


 『ゴーストワールド』は、どこにでもありそうなアメリカの街の風景を舞台にしているが、たとえば、劇中に現れる半裸のヌンチャク男のように、実際にはいなそうな人物さえ、この街にはいてもおかしくないと思わさせてくれるだけの、強度の高い説得力がある。観客は半裸ヌンチャク男の振る舞いに爆笑しながら、明らかにタガの外れているこの人物が、完璧に街の風景に溶け込んでいることに驚かされる。デフォルメされたキャラクターでも、デフォルメされた感情でもない、映画の手触りがここにはある。





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