世界からの離脱
痙攣的に首や手首を激しく振り続ける、ダンサーの常軌を逸したパフォーマンス。冒頭でイーニドがダンサーに合わせて激しく踊り狂う強烈なインド産ロックンロール「Jaan Pehechan Ho」の映像は、ボリウッド映画『Gumnaam』(65)の抜粋である。イーニドのダンスは、どこにでもあるアメリカの住宅街の風景への反抗を示す。イーニドは、音楽によってこの世界のあらゆる風景から切り離される。
『Gumnaam』予告
ハリウッドのミュージカル映画から受けた影響を、ボリウッドが最高の技術で結晶化させた、この信じがたいほど魅力的な映像は、原作者であるダニエル・クロウズが所有していたVHSテープに録画されていたという。それを偶然見つけたテリー・ツワイゴフの、本人曰く「論理的ではないアイディア」(*4)が、どこにも所属できない、どこにも所属したくないイーニドの叫びをよく表している。
「私のは近頃のパンクとは違う。1977年のオリジナルパンクだ!」
『ゴーストワールド』において、音楽はいつもイーニドと共にある。音楽は疎外感を感じながら生きているイーニドの味方だ。何の気なしに流したバズコックスのパンクミュージックによって、イーニドは「1977年のオリジナルパンク」に目覚め、髪を緑色に染める。シーモアから買ったブルースのアナログレコードに収録されたスキップ・ジェームズの「Devil Got a Woman」に共鳴するイーニド。「悪魔になってもいい/彼女の男になれるなら」。どこにもいけない歌が部屋の空間を切り裂く。何かの瞑想に浸るかのように体を委ね、響き合っていく音楽とイーニド。ここには、あらゆる感傷から体ごと離脱していくような美しさがある。
イーニドは孤立していく。レベッカと二人で街を歩いていた、あの息の合ったリズムを失っていく。一緒に卒業パーティーで、音楽に体を委ねていた二人の姿(小さく揺れる二人の背中を捉えた素晴らしいショット!)が、どこかに置き去りにされていってしまう。あれだけ響き合っていたイーニドとレベッカは、お互いの将来への価値観の違いが徐々に表面化していくことで、二人をつなぎ止めていた魔法を失っていく。それでも二人は一緒に住む部屋を探す。
*4 DAZED「Three Things you never knew about Ghost World」