1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 黙秘
  4. 『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作
『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作

(c)Photofest / Getty Images

『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作

PAGES


キングの母に捧げられた物語



 かくも『黙秘』という映画は、物語の展開と共に、女性たちの心理を深く描き尽くした重厚作であることがわかってくる。時に悪態をつき、相手を手厳しく罵ることもある主人公だが、しかしその奥底では守るべき者を必死に守り、女性同士で助け合い、傷を抱えながらそれでもなお逞しく生き抜こうとする。そんな強靭な精神力が浮き彫りになっていくのである。


 本稿を執筆するにあたって原作を紐解く際、訳者の方の「後書き」を読んでひとつハッとさせられたことがある。この小説の最初のページを開くと、「母、ルース・ピルズベリ・キングに」との文字。スティーヴン・キングはこの物語を、自身の小説家デビューとほぼ同時期に亡くなった母へ捧げているのだ。



『黙秘』(c)Photofest / Getty Images


 キングが2歳の頃に失踪した父に代わりに、女手一つでいくつもの仕事を転々としながら懸命に家族を養い続けた母。これらがドロレス・クレイボーンというキャラクターにストレートに投影されているわけではないにしろ、この物語を執筆するにあたってキングが何らかの形で亡き母への思いを心に浮かべていたことは間違いなかろう。


 そう考えると、この映画の冒頭で狂気を感じ取ったのが申し訳なくなるほど、見終わった胸中に熱いものが二重にも三重にもなってこみ上げてくるのを感じるのである。


参考資料

・「ドロレス・クレイボーン」(スティーヴン・キング著、矢野浩三郎訳、文藝春秋、1995年)

・『黙秘』DVD テイラー・ハックフォード監督による音声解説

https://www.npr.org/2011/01/26/133247321/Kathy-Bates-Hangs-Out-A-Shingle-On-Harrys-Law



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



今すぐ観る


作品情報を見る



(c)Photofest / Getty Images

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 黙秘
  4. 『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作