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『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作

(c)Photofest / Getty Images

『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作

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現在と過去を交錯させながら加速していくミステリー



 脚本、演技、美術、その他もろもろの要素をつなぎ合わせ、全体像を形作っていくのはもちろん監督の仕事。その点においてやはりテイラー・ハックフォード(『愛と青春の旅立ち』/82『Ray/レイ』/04)の仕事ぶりには目を見張るものがある。


 前述の通り、本作では同一の物や人でも、場面によって「現在」と「過去」とで20年に及ぶ歳月が経過していて、それらを明確に描き分けなければならない。その際、過去は木々が青々と生茂る温もりに満ちた暖色で描かれ、一方の現代は全ての時が過ぎ去って干からびたかのような荒涼たる色彩が多用されているのが特徴的だ。


 そして、ハックフォードが「スリリングなミステリーを描くと同時に、新たな映像スタイルに挑んでみたかった」(DVD音声解説)と語っているように、複雑な構造を持つこの人間ドラマを見事に貫いているのは、斬新さと幻想性を併せ持った卓越した映像の力に他ならない。



『黙秘』(c)Photofest / Getty Images


 これに関してハックフォードは、シュール・レアリスムの画家、ルネ・マグリットの絵画などからも大きなインスピレーションを得たという。とりわけ彼の“割れた窓ガラス”をモチーフにした絵画(「田園の鍵」)とよく似た場面が本作にも登場するので、気になる方は両者をぜひ見比べて考察してみてほしい。


 また、この映画の最大の見せ場といえば、舞台となる島がにわかに活気付く皆既日食のくだり。母と娘、屋敷住まいの老女といった、3人の女性たちが運命を交錯させる本作のストーリーを象徴するかのように、月と太陽は重なり合い、束の間の静けさと暗闇があたりを満たしていく。


 この太陽の光が徐々に弱まっていく過程を、ハックフォード監督はブルースクリーンを用いた特殊効果を活用し、見事な幻想性のもとで描き切っている。


 輝かしい太陽に少しずつ黒い蓋が被されてゆくこのひととき。それはドロレスを虐げてきた暴力的な夫が陥る古井戸、はたまた窓ガラスに空いた丸い穴のイメージとも絶妙に重なり、あたかも過去の忌まわしい記憶や人間の深層心理を伺う「覗き穴」のように思えてくるから不思議だ。





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