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『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作

(c)Photofest / Getty Images

『黙秘』冒頭の狂気と震撼が巧みに反転、スティーヴン・キング原作の重厚作

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『黙秘』あらすじ

アメリカ・メイン州の小さな島にある、富豪未亡人の邸。そこで血だらけの女主人の遺体が発見された。女主人の頭上には、のし棒を手に呆然と立ち尽くす家政婦ドロレスの姿があった。殺人罪に問われたドロレスは無実を主張するが、事件の詳細については黙秘を貫き通す。実はドロレスには20年前にも、夫殺しの容疑で不起訴になった過去があった。事件を知って娘のセリーナも帰郷するが、ドロレスは堅く口を閉ざし続ける。全ての真相は、20年前の日食の日に隠されていた……。


Index


キャシー・ベイツが再び挑んだキングの世界



 思い返すと今から30年前、1990年代はまさにキャシー・ベイツという女優が大きな勢いに乗っていた時代だった。スティーヴン・キング原作をロブ・ライナー監督が映画化した『ミザリー』(90)で見事、アカデミー賞主演女優賞の座に輝いた彼女。面倒見の良さそうなオバチャンが徐々に暴走を始め、やがて目を覆いたくなるほどの狂気へと振り切れゆく様には、観客の誰もが心から震撼したものだ。


 これから5年後、同じキングの小説「ドロレス・クレイボーン」が『黙秘』(95)となって映画化された折、冒頭シーンでまず濃厚に思い出されたのもこの『ミザリー』だった。『黙秘』は物語が始まるや否や、老婆が屋敷の階段から転がり落ち、まだ息のあるその身体の上に馬乗りになって、凄まじい形相で棍棒のようなものを振り下ろそうとするベイツの姿が映し出される。


『黙秘』予告


 その姿を見て「アニー・ウィルクス(『ミザリー』の主人公)の再来だ!」と思わない人はいまい。以前接種したワクチンの作用というか、人間の学習本能に基づく防衛反応というべきか、『黙秘』の冒頭部のベイツを前にすると、身体中のアラームが「警戒せよ」と大きく鳴り響く。


 だが実のところ『黙秘』はそういう映画ではないのだ。キャシー・ベイツの役柄も決して極悪や狂気の化身ではない。こういった先入観というかミスリードの発動は、おそらく作り手の巧妙な計算であり、仕掛けなのだろう。まず初めに主人公ドロレス・クレイボーンの凄まじい狂気の形相を提示しておいて、物語の展開と共に、それとは真逆のところにある繊細な素顔と地道な人間性を丹念に解き明かしていく。そこにこそ本作の醍醐味があるというわけだ。





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