名脚本家トニー・ギルロイの輝かしい出世作
充実した仕事ぶりといえば、これが若手時代の30代における代表作となったトニー・ギルロイについても同様だ。
有名な劇作家を父に持つ彼は、のちに”ジェイソン・ボーン”3部作(02,04,07/共同脚本)や『フィクサー』(07/監督&脚本)としても脚光を浴びる存在となり、最近だと『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16/共同脚本)や、ドラマシリーズ「キャシアン・アンドー」(22~/クリエイター&シーズン1では5話分の脚本)で高い評価を集めている。いずれも特殊な状況に追い込まれた人間たちを力強い筆致で描き切る構築力に定評があり、『黙秘』ではその初期の才気をまざまざと見て取ることができよう。
『黙秘』(c)Photofest / Getty Images
本作の脚色において特筆すべき点は2つある。まず、キングの小説では、殺人容疑をかけられたドロレスの独白形式が貫かれているのだが、これをギルロイは大胆に構成し直し、ドロレス以外にも娘セリーヌの視点をも起動させつつ、主人公にかけられた殺人容疑の裏側にある真相を、双方からのアプローチで見つめようとしていく。
もうひとつ見事なのは、フラッシュバックが起動する際の描き方だ。50代のドロレスから30代のドロレスへとガラリとシーンが切り替わるのではなく、たとえば、扉の向こうから登場人物の誰かが入り込んできて室内を一周回り込むとそこはすっかり20年前、といった具合に「現在」と「過去」が同じ場面で混ざり合いながらナチュラルに移行していく。これは脚本を具現化したテイラー・ハックフォード監督の手腕でもあるのだろうが、両者のうまさが融合した、思わず見惚れるほど技ありな仕掛けが満載なのだ。