Ⓒ2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves
『アメリ』悪夢的センスの監督が、人々を幸せにする挑戦に成功。今も愛され続ける映画
クリーム・ブリュレの世界的ブームも起こす
大量に投下される強烈な個性の登場人物や、小さなエピソードは一見、乱雑のようで、おもちゃ箱、あるいはアミューズメントパークの隅々を覗くような楽しさが『アメリ』の真骨頂だ。アメリの少女時代の両親に始まり、彼女が働くカフェの従業員ら次々に出てくる人物(犬までも)が、それぞれの「好きなこと」「嫌いなこと」で紹介される。そのひとつひとつはちょっぴり極端なのだが、思わず「こういう人いそう」という嗜好だったりして、瞬間的にキャラが伝わる点では見事な作劇。
ちなみにアメリの好きなことは、「(映画館で)映画を観ている人の顔を見る」「豆袋に手を入れる」「クレーム・ブリュレのお焦げを潰す」「サンマルタン運河で水切りをする」……など。これらの彼女の行動が、パリの日常風景とともに映像化されることで、妙に“おしゃれ”に見えてくる。実際にクレーム・ブリュレは本作のヒットによって世界的なブームを起こした。ちなみにアメリ役のオドレイ・トトゥは水切りができず、該当シーンで撥ねあがる水はCGで加えられた。
『アメリ デジタルリマスター版』Ⓒ2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves
アメリが働くカフェ・デ・ドゥ・ムーランは、作品の象徴するロケ地として、世界中から映画を観た人が訪れるようになった。あまりの反響の大きさで、カフェの外の席の椅子は映画公開後、盗まれないように交換されたという。劇中に登場するノーム(妖精の置物)は、このカフェのオーナーの所有物だったが、映画の人気のためか持ち去られてしまった。カフェの他にもノートルダム寺院、モンマルトルの丘、パリの北駅や東駅、メトロなどロケが多用された『アメリ』だが、映像ではスッキリと整然とした美しさを放っている。基本的にパリの街は汚いので、撮影クルーはゴミを完全に片付け、壁の落書きなどをきれいに消すという作業に追われたそうだ。
その無機質なクリーンさは近未来の風景のように見えるものの、そこに盛り込まれるアイテムはノスタルジックな味わいで、その奇妙なバランスは前々作『ロスト・チルドレン』にも通じるが、『アメリ』はそのバランスが“おしゃれ”な感覚にシフトしたことで、多くの観客の心を捉えた。