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『ギャング・オブ・ニューヨーク』草創期のNYを鮮烈に描いた、スコセッシとディカプリオ初タッグ作

(c)Photofest / Getty Images

『ギャング・オブ・ニューヨーク』草創期のNYを鮮烈に描いた、スコセッシとディカプリオ初タッグ作

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19世紀後半のニューヨークをチネチッタに再現



 1942年生まれのスコセッシはイタリア系移民の子供で、1950年代のニューヨークのリトル・イタリーで育った。そこには周囲と少しちぐはぐに思える古い建物が残っていた。馬車がかつては走っていたと思える道路や聖パトリック教会、古くて小さな地下室。そうしたものは19世紀に作られたものだった。


 「そのうち、この地域に住み始めた最初の人種はイタリア系アメリカ人ではなく、もっと昔から住んでいる人々がいることが分かり、すごく興味をひかれた。当時のニューヨークはどんな外観だったんだろう? 人々の様子は? そんな思いをめぐらせ始めた」スコセッシはウェブの<Smithsonian Magazine>(02年12月号)でそう語っている。


 そして、前述のハーバード・アズベリーのノンフィクション本と出会い、30年後に映画化が実現したわけだが、ロケハンをしてみると、当時をしのばせる建物が残っていないことに気づいた。そこでイタリアのチネチッタ撮影所に当時のニューヨークの街並みを再現した。プロダクション・デザインを担当したのは、スコセッシが敬愛するイタリア映画界の重鎮、ダンテ・フェレッティ。大巨匠フェデリコ・フェリーニの協力者でもあった。彼は当時の建築様式と同じやり方で、物語の中心となる建物オールド・ブルワリーを再現。さらに巨大な船が2隻停泊している港も用意し、街をそっくり作り上げた。



『ギャング・オブ・ニューヨーク』(c)Photofest / Getty Images


 フェレッティは前述の<Smithsonian Magazine>でこう振り返る。「映画の中で街を作る時は、現物のコピーではなく、その場所で生きている人物を想って作り上げる。『模写するだけではだめだ。想像力を駆使することを恐れてはいけない』とフェリーニはいつも私に言っていたからね」


 フェリーニやパゾリーニなど、イタリアの巨匠たちを敬愛してきたスコセッシは、チネチッタでの撮影を心から楽しんだようだ。DVDコメンタリーによると、造形に関してはジェイコブ・リースという写真家が19世紀後半のスラム街を写した写真集も参考にしたという。


 「今後、こうした大掛かりなセットが組まれることは、もうないだろう。いまはCGを使った方が製作費も安く、巨大セットは消えゆく運命だ」とスコセッシ。撮影中には友人のジョージ・ルーカスもやってきて、巨大セットを見学したそうだ。


 建物が次々に襲撃される徴兵暴動の場面はショッキングだが、「暴動の本質を正確に描こうと考えた。暴動が起きた1863年以前のニューヨークは空白の時代であり、新聞も街の現実を伝えていなかった。抑圧された貧しい人々が暴動を起こし、人間らしさを求めて闘う。アナーキーとカオスを背景に略奪が横行する国家のイメージ。都市や文明がくずれている姿を印象づけたかった」とスコセッシは語る。主人公たちが暮らすアンダーワールドの闇が、一気に地下から吹き上げてくるような強烈なインパクトがある。


 ただ、スコセッシはリアルな現実をとらえつつも、ドキュメンタリー的な映画ではなく、オペラ的な演出をめざしたという。さらにフェリーニ、エイゼンシュタイン、スタンバーグ、マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー、オーソン・ウェルズ等、数々の巨匠たちの作品も参考にしたという。荒々しく、バイオレントでありながら、クラシックな映画の華やかな風格もあるところがこの映画の魅力でもある。


 また、レオナルド・ディカプリオやダニエル・デイ・ルイス、キャメロン・ディアス、リーアム・ニーソン、ジョン・C・ライリーなど俳優陣も多彩だが、それに加え、近年、存在感を増している『イニシェリン島の精霊』(22)のブレンダン・グリーソン(後に議員となる役)、『ボイリング・ポイント/沸騰』(21)のスティーヴン・グレアム(レオのギャング仲間の役)、『おみおくりの作法』(21)のエディ・マーサン(政治家の秘書的な役)など、実力派の英国男優たちを早くも起用している点にもスコセッシの先見の明がうかがえる。




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