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『ギャング・オブ・ニューヨーク』草創期のNYを鮮烈に描いた、スコセッシとディカプリオ初タッグ作

(c)Photofest / Getty Images

『ギャング・オブ・ニューヨーク』草創期のNYを鮮烈に描いた、スコセッシとディカプリオ初タッグ作

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ダニエル・デイ=ルイスという怪物的な男優



 主人公の前に立ちはだかる“敵役”を演じるダニエル・デイ=ルイスの圧巻の演技も映画の支柱のひとつで、この役でアカデミー主演男優賞候補になっている(もっとも、公開時は、髪をべったり額になでつけた奇妙な髪型が女性ファンには不評だった覚えがある…)。


 来日会見の席でもダニエルの話は出ていて、レオはダニエルのことを「僕たちの時代の最も際立つ男優のひとり」と呼んでいた。「彼は全身全霊をかけて、役に取り組んでいて、他に例をみないような俳優だ。長い時間、集中力が続くのがすごい」と演技を絶賛していた。


 この映画のキャスティングに関しては、スコセッシがDVDのオーディオコメンタリーで証言している。最初にこの映画の脚本家のひとりとなった、スコセッシの友人ジェイ・コックス(元「タイム」誌の映画評論家)が、「ダニエル・デイ・ルイスがビル役を演じてくれたら、すばらしいだろうね」と提案したことがきっかけで、彼に役柄をオファーすることになったようだ。そして、製作のメドが立った時、理想のビルに思えたダニエルは俳優業を休業していて、イタリアで靴職人として修業していた。


 スコセッシは19世紀末のニューヨークの貴族たちを描いた『エイジ・オブ・イノセンス』(93)でも彼と組み、その仕事ぶりに満足していたので、ぜひ、彼にビル役を演じてほしいと考えたが、すぐには「イエス」の答えを得られなかった。そして、やっとアメリカに呼び寄せることができた時、『ギャング・オブ・ニューヨーク』をめぐる資料をたくさん渡したという。その中には実在のビルの肖像画もあったが、その絵はダニエルによく似ていて、「この役を演じるのが君の運命だ」と彼に伝えたという。



『ギャング・オブ・ニューヨーク』(c)Photofest / Getty Images


 結局、彼がビル役を演じることになったが、憑依型の演技で知られるダニエルは終始この役に没入していた。そして、9カ月におよぶ撮影中、共演のレオともほとんど話をしなかったという(親しくなりすぎると、敵対関係という設定のリアリティが失われるせいだろう)。そんな彼を見て、「ダニエルがそこにいる、という気がしなくなり、まるでビルが本当に生きている気がした」と監督はDVDコメンタリーで振り返っている。


 ビル・ザ・ブッチャー(肉屋のビル)は、ギャング団のボスでありながらも、高い地位にいて、政治家ともつるんでいる。身なりにも気をつかっていて、派手な色ながらも、ダンディな雰囲気の衣装を身にまとっている。役作りに関してダニエル自身もさまざまなアイデアを監督に出し、アドリブもあったようだ。


 ちなみに劇中には、ビルがリンカーン大統領の絵にナイフを投げつける場面がある。ダニエルは後にスティーヴン・スピルバーグ監督の『リンカーン』(12)で主人公を演じて、3回目のオスカーを手にしているので、今見直すと、この場面は楽屋オチに思える。


 撮影中はオフの時間さえも、役になりきることで知られるダニエルは「撮影の最終日が、とても悲しくて、撮影最終日はすごくシュールに思えた。頭も体も魂も、この役をこれ以上続けられないことを受け入れる準備ができていなかった」と<Telegraph>に当時語っている。


 彼が演じるビルは実在の人物だが、劇中の暴力的な設定とは異なり、現実においては人を傷つけたことはあったものの、殺したことはなかったそうだ。また、映画のビルは片方が義眼だが、この点も史実とは異なるようだ。映画では徴兵暴動の場面がクライマックスとなり、そこでレオが演じるアムステルダムとダニエル演じるビルの最終的な対決も描かれるが、実在のビルは暴動の年にはもうこの世にいなかった。ただ、ビルが最後に言ったといわれる「俺は真のアメリカ人として死ぬぞ」という言葉は劇中でも使われる(原作によると現実生活においては、彼が1855年に殺害された時、ニューヨーク市始まって以来ともいえる立派な葬儀が行われ、後に彼を題材にした芝居も上演されたという)。


 ダニエル演じるビルは残忍な面はありながらも、内面には複雑な感情をかかえていて、かつて自分が殺害した“デッド・ラビッツ”のリーダーである神父(アムステルダムの父親)に深い敬意を抱いている。そして、アムステルダムとビルの間には、次第に疑似父子のような感情が通い合うが、やがては宿命の対決の時が訪れる。ふたりの関係に関してスコセッシは“Sight and Sound”(2003年1月号)に載ったインタビューでこう語る。「このドラマのエモーショナルな部分に何よりもひかれた。ここで主人公は自身の父親に対する感情にも向き合うことになる」


 保守的で移民排斥を進めるビルは旧世代、選挙によって人種問題の新しい考え方を望むアムステルダムは新世代と、監督は考えていたようだ。その新旧のぶつかりあいが、当時40代だったダニエルの鬼気迫る演技と20代の新世代のレオとの対比によって表現される。




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