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『ギャング・オブ・ニューヨーク』草創期のNYを鮮烈に描いた、スコセッシとディカプリオ初タッグ作

(c)Photofest / Getty Images

『ギャング・オブ・ニューヨーク』草創期のNYを鮮烈に描いた、スコセッシとディカプリオ初タッグ作

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ロビー・ロバートソンとスコセッシの凝った選曲



 スコセッシ映画は音楽の使い方にも個性が出るが、この映画の選曲も本当にすばらしい。音楽監修は盟友の故ロビー・ロバートソン。ふたりは音楽ドキュメンタリーの傑作『ラスト・ワルツ』(78)を通じて意気投合し、ロバートソンの遺作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』まで、40年以上に渡ってコラボレーションは続いた。そして、今回はニーノ・ロータやクルト・ヴァイル等のコンピレーション・アルバムなどでも知られる才人、プロデューサーの故ハル・ウィルナーも参加。ウィルナーがサントラに書いたエッセーによれば、この映画のサントラ作りはまさに<音楽の旅>となり全部で86曲が登場。主にロビーとスコセッシのレコード・コレクションを中心にして選曲が行われ、「まさに音楽の歴史そのものといえるコレクション」になったと、ウィルナーは記述している。


 スコセッシ自身は前述のDVDコメンタリーの中でこう回想する。「最初は普通のサウンド・トラックを作る予定だった。当時の音楽などないと考えていたからだ。しかし、ニューヨーク歴史協会のおかげで、さまざまな資料が集まった。そして、ブルースも取り入れることで、未来のアメリカも表現したいと思った。英国やアイルランドの民謡に黒人音楽もミックスしたいと考えた」


 民謡やアフリカの音楽、現代の音楽など、おもしろそうなものはロビーが何でも集めてきたという。監督は1年以上かけてCDを聞き、好きな音楽をコンピューターで編集し、アフリカ、アイルランドと分類。どの曲をどの場面で使うのか、編集者のセルマ・スクーンメイカーに細かく指示を出したという。



『ギャング・オブ・ニューヨーク』(c)Photofest / Getty Images


 ただ、冒頭のギャングたちの場面で使われるピーター・ガブリエルのインスト曲「シグナル・トゥ・ノイズ」について、スコセッシはこう振り返る。「劇中で再現される曲は、できるだけ当時の音と思われるものを使うようにしたが、この曲は挽歌としてシーンを盛り上げるために使った」


 ガブリエルはスコセッシの『最後の誘惑』(88)では音楽を担当していて、この時は先鋭的で格調高いサントラ盤を作り上げていた。今回の重量感のある「シグナル・トゥ・ノイズ」も印象的な曲になっている。


 また、劇中にはファイフ(笛)の音が印象的なオサー・ターナーの曲「シミ―・シー・ウォブル」が登場。幼い主人公が父親と一緒に闘いに向かう場面で流れる。この曲を聞いた多くの人に「あのケルトの曲がいいと言われたが、実はケルトではなく、ミシシッピーの音楽なんだ」とスコセッシは言う。彼はこの映画の翌年にブルース音楽の歴史を描いたドキュメンタリー・シリーズ「ザ・ブルース ムーヴィー プロジェクト」(03)を作るが、スコセッシ自身が監督した『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』にはターナーも登場する(ミシシッピー出身の彼は伝説のミュージシャンとして知られている)。


 70年代後半に映画化が進行していた時は、当時、注目されていた英国の人気パンクバンド、ザ・クラッシュの音楽を使う予定だった。「当時はクラッシュの曲を聴きながら映画の構想を練っていて、もっとバイオレントな内容を想定していた」とスコセッシは振り返る(その時は主人公にマルコム・マクダウェルの起用も考えたという)。しかし、21世紀に作られることで、全体の作曲はハワード・ショアが担当し、テーマ曲はアイルランドのバンド、U2が作ることになった。


 残念ながら、86曲を収録したサントラは存在しないが、アメリカや英国、アイルランド、アフリカ、アジアのサウンドまで網羅することで、ユニバーサルな広がりのある音作りが堪能できる映画にもなっている。



取材・文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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