2023.10.27
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』あらすじ
地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイル(ロバート・デニーロ)を頼ってオクラホマへと移り住んだアーネスト・バークハート(レオナルド・デカプリオ)。アーネストはそこで暮らす先住民族・オセージ族の女性、モリー・カイル(リリー・グラッドストーン)と恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が起き始める。町が混乱と暴力に包まれる中、ワシントンD.C.から派遣された捜査官が調査に乗り出すが、この事件の裏には驚愕の真実が隠されていたーー。
Index
- デイヴィッド・グランのベストセラーの映画化
- 原作と映画版の違い~歴史か、キャラクター研究か
- 歴史の読み直しにこだわるスコセッシ
- スコセッシ映画における男性の描写と女性の視点
- ロビー・ロバートソンの想い出に捧ぐ
デイヴィッド・グランのベストセラーの映画化
マーティン・スコセッシ監督の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はデイヴィッド・グランが2017年に発表したノンフィクションの映画化である。
グランはすでに映画化もされている「ロストシティZ 探検史上、最大の謎を追え」(NHK出版)の作者でもあるジャーナリスト。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の原作は、日本では2018年に「花殺し月の殺人」(早川書房刊)のタイトルで翻訳されている。まるでミステリー小説でも読んでいるかのようなスリルが体験できるノンフィクションで、アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞。<ニューヨーク・タイムズ>では40週に渡ってベストセラーのリストに入り、<ウォール・ストリート・ジャーナル>他、多くの有力媒体がその年の年間ベストブックにもあげている。
クオリティの高い本の映画化はむずかしいが、今回の映画化の監督はスコセッシ、主演がレオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロ、脚本がエリック・ロス(『DUNE/デューン 砂の惑星』21)、撮影監督ロドリコ・プリエト(『アイリッシュマン』19)、プロダクション・デザインがジャック・フィスク(『レヴェナント:蘇えりし者』15)、音楽ロビー・ロバートソンと、考えられうる限り最高のメンバーが集められている。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』画像提供 Apple
原作は主に3つの構成から成立している。<クロニカル1>(1921~1925年)は1920年代にオクラホマ州の保留地で暮らすアメリカ先住民、オセージ族の物語で、保留地の地下で発見された石油のおかげで、彼らは(一部の白人よりも)裕福な生活を送っている。そんな部族のひとり、モリーが主人公で白人男性アーネストと結婚。その後、周囲の先住民や家族が次々に不審な死をとげ、<オセージの恐慌時代>が始まる。
<クロニカル2>(1925~1971)の主人公は捜査官トム・ホワイトで、オセージ族保留地で起きている謎の連続殺人の解明を上司のフーヴァーに命じられる。ホワイトはテキサスのローン・レンジャー出身で、刑の執行人として正義を貫いた家族のもとで育ち、強い正義感を抱きながら不可解な謎に迫ろうとする。
<クロニカル3>(2012~)では、オセージ地区を訪ねた筆者グランの新たな捜査が描かれ、モリーの孫娘、マージ―・バークハートとも会う。かつてホワイトの捜査は一定の結果を出したが、21世紀になっても解明されていない過去の先住民の殺人事件があり、一連の事件の根深さが伝わる。
今回の映画で焦点が当てられるのは、<クロニカル1>と<クロニカル2>の前半のみで、事実に基づきながらも、映画らしい見せ場が作られていく。