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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』脚本変更でよりスコセッシ映画へ、ディカプリオとデ・二―ロ、グラッドストーンが体現する葛藤と贖罪

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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』脚本変更でよりスコセッシ映画へ、ディカプリオとデ・二―ロ、グラッドストーンが体現する葛藤と贖罪

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ロビー・ロバートソンの想い出に捧ぐ



 今回の映画を見て、多くの音楽ファンは最後のクレジット、<ロビー・ロバートソンとの想い出に捧げる>の文字に思わず胸を打たれるのではないだろうか。本作はスコセッシ映画を長年、音楽面で支えたロビー・ロバートソンの遺作となっているからだ。


 スコセッシとロビーの出会いは70年代にさかのぼる。『ミーン・ストリート』の製作者、ジョナサン・タプリンはザ・バンドのツアーマネージャーで、(当時は)無名に近い若い監督のために製作費を出した。その縁でロビーとスコセッシは最初の挨拶を交わしたようだが、本当に親しくなったのは、ライブ映画の傑作『ラスト・ワルツ』(78)でコンビを組んだ時だ。ふたりはこの作品で意気投合し、一時、ロビーはスコセッシの家に住んでいたこともあった。ふたりは音楽や映画のことを語り合い、知識を深めたという。そんなロビーが、作曲者として最初に参加したスコセッシ映画は『レイジング・ブル』(80)。また、『キング・オブ・コメディ』(83)ではヴァン・モリソンなど、ロビーが親しいミュージシャンを起用して、充実のサントラを作った。『ハスラー2』(86)では、ロビーがソリッドなテーマ曲も作り、エリック・クラプトンと共作の挿入歌「イッツ・イン・ザ・ウェイ・ザッツ・ユー・ユーズ・イット」が人気曲となった。


『ラスト・ワルツ』予告


 音楽監修者やコンサルタント、作曲者として、ロビーは10本以上のスコセッシ映画に参加してきた。最初の頃は、お得意のロック寄りのサントラが目立つが、21世紀の『ギャング・オブ・ニューヨーク』あたりからは選曲の幅も広がり、世界の音楽の歴史をたどるサウンドが実現。『シャッター・アイランド』(10)では現代音楽などの選曲も行い、映画の内容に合わせて変幻自在のサントラ作りをしてきた。


 ちなみに映画好きでもあったロビーが生前最後にリリースしたソロアルバムのタイトルは「シネマティック」で、まさに映画から抜け出したような音の世界が展開していた。そのうちの一曲「アイ・ヒア・ユー・ペイント・ハウジズ」は、『アイリッシュマン』の主人公のギャング、フランク・シーランにインスパイアされた曲で、ロビーとヴァン・モリソンの軽快なデュエットが印象的。また、現代の才能あるギタリスト、デレク・トラックス(テデスキ・トラックス・バンド)も参加した悲哀感あふれるインスト曲「リメンバランス」は、『アイリッシュマン』のエンドクレジッドでも使われていた。


 ロビー自身はカナダの先住民の血をひいたミュージシャンで、先住民たちの音楽の歴史を描いたドキュメンタリー『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』(17)にも出演していた(スコセッシも出演)。そんな彼の先住民としてのルーツは、ザ・バンドの物語をロビー自身の視点で語ったドキュメンタリー『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(19)でも語られている。



『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』画像提供 Apple


 先住民の歴史を描いた今回のスコセッシの新作は、ロビーが自身のルーツも重ねることのできる待望の企画だったはずだ。油田が発見される冒頭場面の曲「Osage Oil Boom」など、いかにもロビー的なリズムが炸裂する曲作り。一方、この映画で何度か使われる「Heartbeat Theme/Ni-U-Kon-Ska」は、『アイリッシュマン』のサントラに収録されたロビーのテーマ曲同様、ハーモニカが印象的で、人間の揺れ動くダークな深層心理が伝わり、スコセッシが描きたかった「白」でも「黒」でもない複雑な心模様が表現される。


 ロビーは自分の子供の頃に聞いた先住民の音楽をモチーフにして、ブルースを基調にしたサントラを作り上げた。その音楽は<LAタイムズ><イヴニング・スタンダード>など海外のメディアでも絶賛されている。


 ロビーは2023年8月に亡くなり、スコセッシは盟友に対して「彼は親友でいつも側にいてくれた。彼は巨人で、芸術に対して深く普遍的な影響力を持っていた」という公式なメッセージをアメリカの<ビルボード>で発表している。劇映画においても、ドキュメンタリーの分野でも、アメリカの音楽映画の流れを大きく変えてきたスコセッシ。その創造的なパートナーとして、40年以上に渡って彼の側にいたロビー。<ロビー・ロバートソンとの想い出に捧げる>というシンプルな最後のクレジットを見ると、ふたりの長い年月に渡る音楽と映画への思いが読み取れ、深い感慨にとらわれる。



取材・文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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作品情報を見る



Apple Original Films『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

大ヒット上映中

配給:東和ピクチャーズ

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