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『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』父子の関係を再定義する、モーションキャプチャー・ムービー

(c)Photofest / Getty Images

『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』父子の関係を再定義する、モーションキャプチャー・ムービー

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モーションキャプチャーの導入



 もう一人、「タンタンの冒険」に心奪われたフィルムメーカーがいる。ピーター・ジャクソンだ。


「子供の頃から僕はタンタンのファンだった。自宅には本がなかったけど、母親の友達の家に遊びに行くと、タンタンの本が棚に並んでいたんだ。それからというもの、誕生日やクリスマスのプレゼントには、タンタンの本を欲しがるようになった。当時は英語に翻訳されていない本もあったから、フランス語の本も読んでいたよ」(*2)


 ピーター・ジャクソンがスティーヴン・スピルバーグと初めて顔を合わせたのは、第76回アカデミー賞の授賞式会場。『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(03)が、『ベン・ハー』(59)、『タイタニック』(97)と並ぶ史上最多11部門受賞の快挙を達成したこの年に、作品賞のプレゼンターとして登場していたのがスピルバーグだったのである。だがこの時はまだ、オスカー受賞者とプレゼンターという間柄でしかなかった。


 数年後、ピーター・ジャクソンのもとに一本の電話がかかってくる。その相手こそがスピルバーグ。彼は『タンタンの冒険』映画化権を改めて取得し、棚上げされていたプロジェクトを再稼働させたばかり。ピーター・ジャクソンが設立したVFX制作会社WETAデジタルで、ワイヤー・フォックス・テリアのスノーウィをCGで制作できないか、という相談だった。



『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(c)Photofest / Getty Images


 単なる実写映画では、タンタンの世界観を再現することは難しい。ピーター・ジャクソンが提案したのは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラムや『キング・コング』(05)でも使用した、モーションキャプチャー(パフォーマンスキャプチャー)の導入。それが世界で最も有名なコミック・キャラクターを映像化するにあたって、最も有効な手段であることに二人は確信を得るに至る。


 しかし、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』を“スピルバーグにとって初めてのアニメーション作品”と言い切ってしまうのは難しい。あくまで本作は、“全編モーションキャプチャー技術で撮影した作品”。タンタン、ハドック船長、サッカリン、デュポン&デュボン刑事などのキャラクターたちは、アニメーターではなくプロの俳優たちの演技によって魂を吹き込まれている。


 本作は“アニメーションのアカデミー賞”と呼ばれるアニー賞で5部門にノミネートされているが(うち2部門で受賞)、肝心のアカデミー賞長編アニメーション部門にはノミネートすらされていない。モーションキャプチャーを用いた作品は規定外だからだ。そう考えると本作は、生身の肉体による実写映画と、精巧な3DCGアニメーション映画との間に位置する、極めて特異的な存在と認識すべきだろう。


 印象的なシーンがある。タンタンが似顔絵を描いてもらう冒頭のシークエンス。完成した絵には、漫画でおなじみのタンタンがそのまま描かれていて、それをジェイミー・ベル演じるタンタンが受け取る。バンド・デシネ的ビジュアルをそのままアニメにするのではなく、かといって実写にするのでもない。その中間的なるものを目指した作品であることを、このシーンは指し示しているのかもしれない。




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