高校内のヒエラルキーと、そこからの目覚め
物語は、原案となった「エマ」と同様、シェールが他人の恋の橋渡し役に熱中する様をコミカルに描く。自分の授業評価を上げてもらうため、堅物の教師に同僚との恋をお膳立てすることに成功したシェールは、今度はタイをクールに変身させるため、彼女にぴったりなボーイフレンド探しに奔走する。だが完璧だと思っていた相手探しはまったくの見当違い。しかも自分の相手にと見込んだクリスチャンはゲイだったことが発覚。面倒を見ていたはずのタイはいつのまにか自分よりも人気者になり、いったい何が起きているのかとシェールは戸惑うばかり。
『クルーレス』は、まさに学園コメディの見本として、アメリカのさまざまな高校生のタイプを提示してくれる。おしゃれで人気者のシェールが、ディオンヌとタイを引き連れ校内を闊歩する様は、まさに学園の女王とその取り巻き女子たち。周囲にはやはりクラスの人気者の男子や、スケートボードとマリファナに夢中なボンクラ男子もいる。ただし、普通の学園ものによくあるような、激しいイジメや絶対的な階級制度はさほど見られない。ダサい子はいじめられる、と言いつつも、どこかのんびりとした雰囲気だ。
『クルーレス』(c)Photofest / Getty Images
平和的な雰囲気なのは、これが校内の上層に位置するシェールから見た景色だからだろう。学校の下層に位置する学生たちの視点に立てば、同じ高校生活でももっと陰惨になるに違いない。実際、当初タイの彼氏にぴったりだと見込んだエルトンから、シェールは次のように言われてしまう。「僕が好きなのは君だ。だって君と僕は同じ階級だし、タイは僕らとは違うだろう?」たとえ見た目を大変身させても、家柄や経済状況によって彼らの力関係は決まってしまう。その残酷な現実をつきつけられ、シェールは呆然としてしまう。
すっかり自信をなくし孤独に落ち込んだ彼女は、これまでの行いを振り返り、自分が本当に望んでいたものは何なのかを考えはじめる。そして、自分の視野がいかに狭いものだったか、これまでの振る舞いの横暴さに気付かされる。シェールは周囲の人々への見方を改め、同時にずっと認めようとしていなかった自身の恋心を自覚する。いつもそばであれこれと忠告をしては優しく見守ってくれていた義兄ジョシュに、彼女はずっと惹かれていたのだ。